[ 銀色カフェのお料理教室 ]
「冬はさ〜、カレーだよね!」
が作ったのはカレーだった。
「・・・・・・アンタ、馬鹿だろ?いや、馬鹿だな。冬はシチューだろ、普通」
将臣に額を指で軽く叩かれる。
ここは何処かと問われれば、知盛が経営する喫茶店。
カフェと呼ぶ方が相応しい作りの店。
「そんな事ないよ。カレーはさ、熱々で食べられるんだし。他におかずいらないし・・・・・・」
たった今、カレーのルーを入れた鍋を覗き込む。
「・・・を信用した俺が馬鹿でした〜っと。何か他に考えるか」
将臣が店の冷蔵庫の扉を開けた。
本日は定休日。どこで話がまとまったのか皆で夕食を食べようという話になった。
が手料理を振舞うというので、知盛は料理を将臣とに任せて出かけていた。
「カレーだけじゃ知盛が煩いだろうしな〜。サラダ・・・とか?」
将臣が振り返ると、が激しく首を横に振る。
「え〜〜、カレーに野菜入ってるよ。これでいいじゃん」
の言葉に将臣が項垂れた。
「・・・よく考えたらさ、毎日昼ココへ来るような食生活なんだよな。弁当とか作らないワケ?」
将臣の周囲の女子は弁当を大学へ持参している。自分で作っているかどうかは不明としてもだ。
「そんな時間あったら、一分でも多く寝てたいよ。朝なんて、そんなもんじゃないの?」
せっせと鍋をかき混ぜる。大人のカレーに仕上がる予定だが、の味覚での辛さに調整してある。
(いいよね。二人とも、辛いの平気そうだし)
景気よくタカノツメを潰して鍋へ放り込んだ。ついでに黒胡椒も数度振り入れる。
将臣はレタスと格闘中につき、カレーの製作過程を見逃していた。
「まあな〜、俺も朝は起きねぇ方だし。あんまり言えた義理じゃないけどな。一品だけってのはなぁ」
レタスを手で千切りながら、サラダらしきモノを製作中の将臣。
「どうしてサラダかなぁ〜。だったらヨーグルトに缶詰のフルーツ落としてデザートでいいじゃん!」
またも将臣の首が項垂れた。
「・・・サン。手料理を振舞うって話でしたっけね?」
がレードルを将臣へ向けて言い返す。
「手料理っしょー、十分立派に!」
ややもすれば、体は反り気味で自慢げですらある。
「・・・サン。あまり手を加えない料理ばかりのように思うのですが。振舞ってるつもり?」
カレーの野菜は将臣とが仲良く切った。
発案のデザートに至っては、ヨーグルトを器にあけて、缶詰を開封してフルーツをトッピングするだけだ。
「料理ってのは・・・こう・・・おもてなしのココロで何かさぁ〜」
普段は譲が作る手の込んだ料理を家で食べている将臣。
知盛も器用に様々な料理を作るので、料理に対する基準値はかなり高めに設定されていた。
「え〜〜〜。家で作ればそれだけでスゴイ事だよ?今時はさ、出来てるの買えるし。時間も節約だよ」
食材の買出しをし、帰宅後に料理を作る時間とコストに対する考え方の違いの問題だ。
「う〜ん。なんつうか・・・初めてだよ。そういう意見は」
譲などはクラブの後だろうとも料理には市販の完成品を使わない。
出汁も粉末や液状のものなど使ったのをみたことが無い。実際、鰹節まで家で作りそうな勢いだ。
「ふうん?将臣君は恵まれてるんだよ。何でもひとりで全部って考えたら、時間は決まってるんだし。
私にとっては料理の順位は下の方ってだけ」
後は煮込むだけなので、鍋の蓋を少しだけ隙間を開けて閉じた。
「そういう考えもアリかもな。知盛が帰って来る前に準備しとくか!」
店内の四人掛けのテーブルに三人分のセッティングを始める将臣。
「あ・・・・・・コーヒーも用意しないとな〜。アイツ煩いんだ」
将臣がコーヒー豆を挽こうとすると、が横から手元を覗き込む。
「ん〜〜〜イイ香り。豆、私が挽こうか?」
「んじゃ、任せる。俺はあっち」
湯を沸かす用意をすると、後は知盛の帰りを待つばかり。
「ね〜、知盛さんって・・・ドコ行ったの?」
「さぁ〜?知らねー。でもさ、珍しいよな。突然出かけるってのは」
そもそも、手料理の話が決まったのは昨日。
そして、今日突然出かけてくると言われたのだ。
「・・・変だな。どうして今日なんだろうな?が来てるのに」
首を傾げる将臣。
「あれかな〜、私の料理する姿を見ているのが怖くて逃げ出したとか?」
豆を挽き終えたミルを将臣に差し出す。
「う〜ん。ってば自虐ネタかよ。確かに・・・・・・俺も怖いと思った。指が飛びそうで」
二人そろって包丁使いは上手いとは言えない。剥かれた野菜の皮が雄弁に二人の腕前を物語っていた。
「・・・・・・上手くはないけど。結果オーライっていうの、こういうのは」
将臣がサイホンをセットする様子をのんびり眺める。
「結果はカレーじゃわからないって?誤魔化すためにカレーにしたってオチじゃねぇよな?」
「ぎくーっ!ほ、ほら!カレーってさ、キャンプでも何でも作るくらい、ほぼ失敗がないからっていうか」
本日三度目の将臣の項垂れた頭部を見ることになった。
「ま、いいさ。そんなもんだろうな〜。海でもコロッケ平気でむしゃむしゃ食ってたし。ビール片手に」
「失礼ねっ。私のコロッケ返せ!」
「無理だろ?ソレ。無茶ばっか」
将臣とは目を合わせると、声を上げて笑った。
店の扉が開くと音がする。姿を現したのは知盛だった。
「・・・・・・カレー?」
「おかえりなさいっ。そ。カレー。文句ある?」
知盛の片眉が持ち上がる。
「・・・クッ、手料理は・・・・・・ごった煮か・・・・・・何でも入れればOKだし?」
知盛が口の端を上げてに微笑みかける。
は途端に赤くなる。
「なっ・・・そういう痛いトコ突かないのっ!いいでしょ。インドの煮物だよ」
「ハッ!インド風ね?だったらナンを焼いた方がよかったな?」
「あ゛!」
言われて思い出したのは、ご飯を炊いていなかった。
「ご飯・・・忘れてた・・・・・・」
「だろうな。・・・ガーリックライスとサフランライス、どっちがいいんだ?」
知盛がへ向けて首を傾げる。選べという事だろう。
「えっ・・・えっと・・・・・・」
「俺は両方!!!」
カウンターから将臣が声を上げて主張する。
「・・・クッ、わかった。半分ずつに盛り付けてやるよ。そうすれば二度楽しいだろう?」
戻った早々に冷凍庫を開けて冷凍のご飯のパックを取り出す知盛。
「わ〜。一個、一個小分けしてるんだ。マメだなぁ」
「これくらいは普通。うちも冬にはドリアがメニューにあるしな・・・・・・」
あっさり言い返されて、の体が小さくなる。
「・・・料理失格って言われてるみたい」
「・・・クッ。受け手の自由だ」
二つのフライパンで両方を見事に仕上げていく様子を、将臣とは並んで眺めていた。
「ほら。将臣がカレーを盛り付けて運べ」
プレート三枚には、可愛らしく盛られている二種類のライス。
「おう!やっぱ両方はイイ。しかも、大盛は俺だろ?」
嬉しそうに将臣がプレートを手に持ち、仕上げの作業に取り掛かった。
「う〜ん。料理上手の男ってイイ!スカウトしたいくらい」
ヨーグルトのデザートをテーブルに並べながら、が呟く。
「・・・・・・それで?お二人さんはこれを何にしたかったんだ?」
知盛が千切れたレタスを指差しながら、まず将臣を見ると視線を逸らされた。
続いて視線はへ移る。
「・・・サラダ・・・のつもり」
胸の前辺りで指を忙しく動かしながら、が上目遣いで質問に答えた。
「・・・・・・つもり・・・ね。確かに」
横目で眺めたレタスに何かを加えるべく、またも冷蔵庫の扉を開く知盛。
プチトマトとコーン、キャベツの千切りが増量された。
「お〜っ!立派なディナーじゃない?」
「・・・サン?知盛いなかったらこうならなかった・・・だろうがっ!メシ抜きのカレーはありえねぇっての!」
拳骨で将臣にぐりぐりと左右のこめかみ辺りを攻められる。
「いっ、痛いっ・・・ひどぉ〜い!カレーは過去最高の出来だよ〜〜〜」
「普通だ!いたってどこにでもあるカレーだっての!サン、市販のルーだろ!!!」
さらに捻りが加わる。
「うきゅゅゅっ!足した!タカノツメ足した〜!大人の味だって!」
二人の遣り取りを見守っていた知盛だが、ここに来て口を挟んだ。
「。何を足したって?」
知盛の片眉が上がる。
「タカノツメ。私、辛いの大好きだもん」
「・・・・・・限度によるだろう?」
知盛は鍋の蓋を取ると、軽く小皿に少量のカレーを入れて味見をした。
「・・・どう?美味しいでしょう〜〜〜?」
の力作である。これだけ大量のカレーを作ったのは久しぶりでもある。
「・・・クッ・・・クッ、クッ、クッ。将臣は・・・覚悟するんだな?」
将臣の表情が青ざめた。
「・・・嫌な予感。って・・・・・・バカ辛好きとか?あれだろ、カレー屋で辛さ五倍とか頼むタイプ?」
将臣が恐る恐る知盛へ近づくと、小皿を差し出された。
そのまま舌先で味を確認する。
「げっ!か、かれぇ〜〜〜。ありえねぇ、コレ。ご飯の問題じゃねぇし」
「えっ?!将臣君ってば、お子ちゃまなの?」
も慌ててカレーの鍋へと近づく。
「ほら。何本入れたんだよ・・・・・・」
さらに少し掬ってからへ小皿を差し出す知盛。
「・・・・・・あ〜〜〜。ちょっとだけ辛かった・・・かな?うん。私は平気。知盛さんも平気そう。問題は・・・・・・」
「その視線、ムカつく。別に俺が標準なんだって!あんたら舌がおかしいんだ」
将臣がやってられんとばかりに手をひらひらと振る。
「シナモンパウダーでもかけるか?チョコレートを足してもいいし・・・・・・」
知盛が将臣の後頭部を軽く叩いた。
「・・・何でもイ。食えるように頼む」
将臣が自分の分のプレートをテーブルから持ってくる。
知盛は小鍋に取り分けたカレーを、ヨーグルトとチョコレートを足して加工した。
「ほら。混ぜながら食うんだな」
「さんきゅ!頼むぜ、サン。そんな辛いの食べたら、汗ばっか掻いて大変だぜ?」
皿を運び、そのまま将臣は席についた。
「むむぅ・・・辛いのが苦手な男がいるとは計算外だった〜。・・・いいなぁ、そっちの味も気になる」
指をくわえて将臣のプレートを眺めているの前に、小鉢に入ったカレーが知盛から差し出される。
「・・・言うと思った」
「すいません、食いしん坊で」
頭を下げながらもしっり自分の前へキープした。
シチューの素か、カレーのルーか?冬の楽しみは気分で変えて楽しむのがいい。
ただし、味覚は人それぞれなのでご注意───
(Printing day:2005.12.09)
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