[ 銀色カフェの七夕さま ]
「・・・これ何?」
店の雰囲気に、まったくもって似合わない笹が大き目の花瓶に無理矢理おさまっている。
「・・・・・・笹」
将臣に目を合わせる事無く、カウンターの中から返事をしたのは知盛。
「・・・それくらい解ってるっての。そこまで人をバカ扱いすんなっ!だ〜、か〜、らっ!・・・パンダでも飼うのか?」
笹を見てパンダしか思い浮かばない頭の将臣。
(・・・・・・さしていいともいえないオツムだな・・・クッ)
本当は声に出して笑いたいところだが、心の中だけに留める。
軽く指を回しながら将臣の注意をひきつけると、そのままカレンダーの七の日を指差す。
「七?・・・・・・ああ!七夕ね。七夕の笹?」
カレンダーの日付の下に書いてある文字を見てようやく何の日か理解する。
「ご名答。後は飾りつけなんだが・・・・・・」
笹を用意したのは知盛なのだから、残りは他の者にやらせたい。
しかし、将臣にさせるのには少々不安がある。
とりあえずは買ってきた短冊と折り紙をカウンターのテーブルに置いてみる。
「うわ・・・願い事、書けって?何がいいかな〜。こういうのはさ、書くと叶いやすいっていうよな」
折り紙を無視して、マジックを手に取り椅子に座る将臣。
左手に短冊を持ち扇ぐ仕種をしつつ、右手でマジックを回している。
「おい・・・こっちもだ」
他に人材がいないのだから、将臣に期待するしかない。
知盛は将臣が無視した折り紙を、将臣の前に置きなおす。
「げ!こんなの出来るかよ〜。紙飛行機くらいしか折ったことねぇし」
「クッ・・・よく考えろ」
少しだけ首を前に突き出した将臣が、眉間に皺を寄せながら七夕を思い出す努力を始める。
(ああ・・・輪っかとか、確かに折ってはなかったよな?)
紙を長く切り、ちまちまと繋げばいい事は思い出すが、他の飾りの作り方はまったく想像もつかない。
「・・・これで輪っかの・・・長いの作って笹に巻けばイイ?」
とりあえず、唯一出来そうな飾りを言ってみる。
知盛が大きく息を吐き出した瞬間、
「こんにちは〜!・・・あ、もう、こんばんはかなぁ?どっちだと思います?」
外から店内に客がいないのが見えたのだろう。
が勢いよくドアを開けて入ってきた。
「・・・クッ、クッ、クッ。・・・・・・いいタイミングだ。奉仕の時間はあるか?」
「ほうし?・・・シダ植物の胞子じゃヘンだし・・・ボランティア?!無料で働くってコト?」
しっかり将臣の隣に座ると、その前にある折り紙が目に留まる。
「わかった!あの笹にぃ・・・飾るやつを作るとか?そういう奉仕なら参加しますよ〜」
知盛の返事も聞かずに、真新しい折り紙の包装を音を立てながら開け始める。
「・・・クッ・・・は勘がいいな。出来るか?」
注文は無いが、の飲み物を作り始めながら様子を窺う。
「え〜っとね、こういうの好きなんですけど・・・ハサミとセロテープと紐が無いと出来ないですよ?」
折り紙の色を分別しながらが足りないものを口にする。
しっかり自分の好きな色をキープしているらしい。
「おう!取ってくる」
将臣が奥へと取りに行く。
の手は、さっさと折り紙を折り始めている。
将臣が戻ってきた時には、妙な形に折られた折り紙が並んでいた。
「・・・どうして半分だけ折ってるんだ?」
正方形を真ん中でおっただけの折り紙が並んでいる。
折り目があるのに、もう片方は元に戻されているのだ。
「使うのは半分で。残り半分は将臣くん担当なんだよ?」
将臣の手からハサミを奪うと、単純に半分に切る。
長方形になった折り紙を重ねて半分に切れば、後は繋ぐだけだ。
「これをね〜、まずはひとつ輪にしま〜す。続いて、輪に通して輪にしま〜す。ね?」
知恵の輪のように二つの輪が繋がった折り紙を将臣に差し出す。
「・・・そっちの残りは何に使うんだよ?」
自分がこれからすべき作業はわかったが、の前に残っている半分に折られた折り紙の方が気になる将臣。
「あ、これ?これはハサミを使うんだよね〜」
等間隔に切れ目を入れ、一度軽く開いてみせる。
「これ、こんな風にしたらわからない?」
まだセロテープで端を止めていないが、手で摘まんで完成形を将臣に見せる。
「あ!提燈か〜〜。へ〜〜〜、そんな簡単なんだ」
「バカにしたな〜?案外可愛いんだよ、紐を通して飾ると」
次々と切れ目を入れて、瞬く間に提燈が完成してゆく。
「・・・将臣くん。見てないで作りなよ。ちっとも長くなってないし」
いまだに二個しか繋がっていない輪を指差す。
「・・・確かに。将臣は手が遊んでいるな?」
口の端を上げて笑いながら、出来立てのアイスのカフェ・ラテをの作業の邪魔にならない場所へ置く。
「・・・・・・すっげームカつく。出来るって」
「じゃあしなよ。今の間に出来るじゃん」
「うっ・・・・・・」
に最もな突っ込みを頂戴し、将臣が大人しくなる。
「そぉ〜だ!星型って長方形で作れるだよ〜。色々作ってみよう!」
すっかり童心に返ったは、昔を思い出しながらせっせと折り始めた。
「こんばんは〜。今日は久しぶりに買い物して寄り道・・・・・・あ・・・・・・」
カウンターに先客がいたので、がドアを開けたまま立ち止まる。
「・・・クッ・・・コレは客だけど別枠だから、こちらへどうぞ?」
カップを拭いていた手を止め、知盛が指でに中へ入れと指示をする。
「あ・・・そ、そうなんだ。その・・・・・・はい。お邪魔します」
知盛と将臣が恋人関係なんだと決め付けていた。
客だけど客ではないという女性に、自分の今までの想像が間違っていたのかと少しばかり落ち込みながら近づく。
「いらっしゃい、サン。俺、手が離せないから」
挨拶をしただけで、将臣は必死に折り紙を繋いでいる。
「こんばんは!噂のさんに会えて嬉しいです。私、月読っていいます。よろしくお願いします」
がぺこりと頭を下げた。つられても頭を下げる。
「あっ!・・・よ、よろしくお願いします。うつほです」
何となく隣に座っても良さそうな気配に、はの隣に腰を下ろした。
「その・・・何してるの?」
将臣には声をかけにくい雰囲気なので、に尋ねる。
「これですか?あれの飾りつけを任命されまして。折り紙を思い出しながら折ってたら、意外に楽しくて止まらないんですよ」
振り返れば窓際にあるのは笹。
将臣の前の篭には、よくも作ったなという様々な飾りが入っている。
さり気なく小さな笹に合わせて、大きな折り紙を小さく切って折っているらしい。
一瞬、も手伝おうかと口にしかけたが、知盛によって遮られた。
「それで?嬢は夕飯に何をご希望だ?生憎、バイトが注文をとれる状態ではないのでな・・・・・・」
だから知盛がという事なのだろう。
いつの間にかとの正面に知盛が立っていた。
「え〜っと・・・お邪魔になるので・・・そのぅ・・・今日はお休みで買い物帰りなだけで・・・・・・」
普通のカフェは待ち合わせなどで大繁盛だが、元々この店に限っては客を選んでいる。
よって、ナマケモノの店長に合わせられる客しか来ないから座れないという日は無い。
「ええっ?!邪魔って・・・こんなにガラガラに空いてますよ?それにぃ・・・さんが食べていくなら私も!」
は、帰りに少しだけお茶とおしゃべりを楽しもうと寄り道をしたのだが、予定外の折り紙に時間を費やしてしまったのだ。
「ついコレが楽しくて、時間経っちゃったし。今から買い物して帰ってご飯なんて作れな〜〜〜い!」
なんとも正直なに、が笑い出す。
「あはは!話に聞いていた通りだね。さんって、正直。やっぱり夕飯食べて行こう」
メニューを手に取ると、知盛の手によって戻される。
「将臣・・・一時中断。店閉めろ」
軽く将臣の頭を叩いて、作業を止めさせる。
「んあ?ああ・・・店ね・・・はい、はいっと」
将臣が立ち上がるのを見ていたが、視線を知盛へと移す。
「夕飯ダメ〜〜〜?それとも、期待しちゃっていい方〜〜〜?」
知盛の行動パターンなら、締め出しか特別サービスのどちらか。予想では後の方である。
「・・・クッ、わかってるなら聞くな。そうだな・・・リクエストは?」
知盛が聞いたのはとにだ。
ところが、声ははるか後方のドアから聞えた。
「はいっ!肉っ。肉だ〜〜〜。気合が必要な時は肉っ!!!」
片手を上げて振りながら、将臣が主張を繰り返す。
「・・・だって。お肉たっぷりカレー食べたいな〜。私、カレー好き。辛くても平気ですよ。ね?さん!」
がの存在を知ったのは、将臣が辛いものが苦手という話の流れでだ。
「げげっ!そんなの話してるの?噂って、その噂だったんだ〜〜〜。海で会った方かと思ってたよ」
が頭を抱えてカウンターのテーブルに突っ伏す。
料理をするといっておきながら、知盛がいなければ厳しい結果に終わったであろう日の出来事だからだ。
「。勘弁してくれよ〜〜〜。のカレーは、ちょっと半端ナイ辛さなんだぜ?知盛!何か考えろよ」
の頭をゴリゴリとテーブルに押し付けながら、将臣が隣に座った。
ドアの外の札は“close”にされ、カーテンも閉められてすっかり閉店状態だ。
「辛さ控えめキーマカレーとナンにサラダをつけて・・・・・・」
知盛がメニューを考えながら口にする。
「うひゃ〜〜〜、美味しそう!デザートは、いつか食べたシャーベットがイイ!あれ、すっごくサッパリするぅ」
またも元気にリクエストする。
知盛がの頭を軽く叩き、顔を上げさせた。
「と、いう事だ。早く言わないと、お嬢さんの意見はナシになるが?」
注文は将臣の肉、のカレーとデザートまで決まってしまっている。
「どうしよ〜。だって、聞いてるだけで美味しそうだもん。後はお酒かな〜?ビールっしょ!」
「・・・クッ、クッ、クッ。確かにな・・・インドのビールをご用意いたしましょう。将臣、取りに行って来い」
ここまできたら、最後までインドで揃えたい。
「へ〜、へ〜。知盛の酒蔵からね。インドって何て名前?」
カフェといいながら、アルコールも出さないわけではない。
夕方からは、一部の客にはアルコールも出している。
「・・・キングフィッシャー・・・・・・。無ければマハラジャがあるとは思うが・・・・・・」
適当に買っては気まぐれに飲むので、きちんとした本数を覚えていないのだ。
「うわ〜〜、いかにもインドっぽい名前。いいね〜、ビール!」
が手を叩いて喜ぶ。
「カッコイイ〜、さん!さんが飲むなら、私も飲んじゃおうっと」
「おっ?飲める人?」
がの方を向くと大きく頷かれる。
「もちろん!なんだか嬉しいなぁ〜。たくさんおしゃべりしましょうね!」
「いいね〜。とりあえずは先に飾りつけ担当になろうかなっ」
が作った飾りの入った篭を持つと、が窓際の笹へと歩み寄る。
「・・・クッ・・・まあ自由にやってくれ」
口元に笑みを浮かべながら知盛が料理に取り掛かる。
予定外ではあるが、との組み合わせは面白い話が聞けそうだからだ。
「知盛〜、これか?こっちの冷蔵庫に入れておくぜ〜?」
店の冷蔵庫へ件のビールを入れると、将臣がフロアーへと出てくる。
「あっ!ずりぃ〜〜〜の。ってば、一番楽な事してやがるっ!」
を指差して文句を言う将臣。
隣でが将臣に向かって短冊を振り回す。
「楽っていうのは、短冊にこんなちっちゃな願い事を書く事ですか〜?もう少しドカンと大きな事書きなよ。もったいない」
「うわ〜!なんて事するんだ。かなり切実なんだよ、俺にしては」
の手から短冊を奪い返す将臣。
はしっかり参戦すべく、カウンターへ戻ってくる。
「何て書いたの〜?」
が覗き込もうとすると、将臣が背中へと隠す。
が、は覚えているのだ。
「沖縄行きたいだけ。もう少し何か書きようがありますよね〜?」
「だったら、お二人さんも書け。そこにあるだろう?」
知盛から突っ込みが来るとは思わなかったと。
知盛の方を見れば、いくつもの作業をこなしており、まるでこちらを向いてはいない。
「知盛さんって、お耳がイイよね。・・・書かなきゃ!願いが叶うように。さんは何色?」
トランプのように短冊を並べてへ見せる。
「え〜っと・・・私は何色がいいかなぁ?それより、書く事ないかも〜」
そうは言いながら、水色の短冊を手に取る。
「もったいないですよ?こういうのは言うのも書くのもタダですから。えらそうに書かなきゃ」
は淡い緑色を手に取ると、しっかりマジックを手に待って書き出した。
「早っ!しっかりしてるな〜、ちゃんは。あ・・・ちゃっかりちゃんって呼んじゃった!」
「いいですよ〜、ちゃん付けなんて最近呼ばれないから新鮮!逆に嬉しいかも〜〜。で〜きた!」
既に書き上げた短冊を、堂々とへ見せる。
「・・・・・・あははははっ!それ、いい。笑える〜〜。しかも両面なんだ。私、勘違いしてたよ〜。そうなんだ。話が合いそう!」
「ほんとに?さんもなんだ。嬉しいな〜。だって、楽しいですよね。つけてこよ〜っと」
紐を手に取り、短冊に通して結びながらが窓際へ向かう。
「何?何が書いてあるんだ?」
「いや〜、後で見てみれば?彼女、隠すような性格じゃなさそうだし」
笑いながらも自分の短冊に願いを書き付ける。
「ケチくせ〜。知盛は書かねぇの?」
の真似をして、紐を短冊へ通す将臣。
「・・・さあ?必要とあらば書くが・・・・・・」
知盛の予想では、必要がない。すでに書かれているだろうからだ。
「はぁ?意味不明な奴だな〜。ま、いいか。で?さんは?」
「え?私?私は美味しいお酒とご飯があれば嬉しいですって書いたよ?」
短冊を将臣に見せる。
将臣は短冊を手に取り、しっかり目で追う。
「!ちいせ〜ってのは、こういうのじゃねぇのか?ずっと美味しいお酒とご飯があればいいな〜って」
ビシッとに向けての短冊をかざす将臣。
「コドモにはわかり難いんだよ。それがわかったら大人なんだから。さ〜て!ご飯が出来るまで、楽しくおしゃべり!」
再びの隣に座る。軽く将臣の額を指でつつく。
「っかんねぇな〜。なぁ・・・知盛はわかるのか?」
カウンター越しに、他の大人にも尋ねてみる将臣。
「ああ・・・生きてる証だ」
それだけの事だ。だが、それだけが難しい。
「益々わかんねぇ。ま、いっか!将臣スペシャルのオレンジジュースを先にお出ししますか」
カレーともなればすぐには出来ない。
将臣がその間のホスト役だ。
「わ〜い!将臣くんったら、サービスいい〜〜〜」
「ほ〜んと。とても私のコロッケ奪った人とは思えないわ」
が海での出会いを思い出す。
「え?何ですか?その話聞きたーーーい!」
将臣の食いしん坊ぶりとおねだり上手が暴露された夜。
こっそりの短冊を見る知盛。
表はいかにもらしく、『玉の輿!』とだけ書かれていた。
裏返すと・・・・・・
『知盛さんが将臣くんを沖縄に連れて行ってくれますように!お代は将臣くんがカラダでご奉仕です。これは確実に叶うね。楽しみ!』
(・・・クッ・・・お代ねぇ?旅費ぐらいお安いものだ・・・・・・・・・・・・)
知盛に旅費を出されるのが嫌なのだろう。
将臣がせっせとバイト代を貯めているのは知っていた。
「後はお嬢さん方の楽しみを叶えるだけか・・・クッ・・・・・・」
知盛が書くまでも無く、知盛の願いは書かれている。
将臣とこのままいられたら───
「おまけ付の方が便利か・・・・・・」
明日は七夕だ。沖縄での逢瀬はもう少し後がいいだろう。
出来れば、カモフラージュに最適な二名の女性陣付で。
夏休み、奇妙な四人組が沖縄に出現する。
一見ダブルデート。その実、組み合わせは違うという四人組。
カフェは夏場に臨時休業もございますので、ご注意下さい。
(Printing day:2006.07.10)
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もなか師匠の病が回復しますようにっ!
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