[ 季節外れの夏休み ]




「で?どうして今頃夏休み?もう九月だぜ〜?」
「だから〜。それはさ、お盆はみんなが休みたいわけよ。でね、家族がいないひとり者は七月とか九月が定番なの」
「ありえね〜!意味あんの、ソレ」

 夏も終わりとは言いながらも、まだまだ残暑厳しい九月の初旬。
 季節の挨拶だけは初秋の候だが、気温は普通に三十度を越している日々が続いている。
 そんなある日のカフェ・デ・プラタの昼下がり。

「そういう将臣くんこそ、九月だよ?」
「おう!俺はまだ夏休みなんだよ。しかもなぁ・・・俺には出席及びノート担当がいるからテストまでいかなくていいんだ」
 担当とは幼馴染の望美の事だ。勝手に担当にしているだけで、望美に言わせれば任されていないといったところだろう。

「将臣くんってさ、悪いオトコだよねぇ。幼馴染利用しまくって」
「・・・その不穏な発言を訂正しろ。なんかソレだと詐欺師みて〜だ」
 客が帰ったあとのテーブルの片付けをしながら、カウンターを陣取るの話相手も務める将臣。
 知盛は新しいコーヒーを淹れるのにのに忙しい。
 の他に客がいないのをいいことに、銜え煙草でまったりとドリップ中。
 意外な事に、特別なコーヒーは手で淹れるのだ。サイホンすら使わない。

「似たようなもんだよ。それとも・・・甘えてるのかな?ん?」
 退屈も度が過ぎると誰かにかまって欲しい。
 だが、の場合はさらに退屈すぎて、将臣をからかうことで退屈を凌ぎだしていた。


「・・・クッ・・・そう俺の仔猫ちゃんをイジメないでやってくれ。・・・これでどうだ?」
 淹れたてのコーヒーを大量の氷で一気に冷やした薫り高いアイスコーヒーだ。
「や〜ん!嬉しいです。これで大人しくしま〜すv新しい種類の豆ですね〜?」
 あまりの変わり身の早さに、将臣は開いた口が塞がらない。
 確かに新しく知盛が買ってみた豆だ。味見なので無料は確実。
 カラカラと心地よい音を響かせながら、はコーヒーを楽しんでいた。


「・・・それで、お嬢さんはいつまで休みだ?」
 カウンター越しに知盛がへ話しかける。
「え〜っと・・・十日間だから、あと九日」
 カレンダーを指差しながら、空いたグラスを知盛に見せる。
「・・・クッ・・・遠慮の無い事で。将臣もこっちへこい」
 手招きしながらへおかわりのアイスコーヒーを出し、その隣の席へ新しいアイスコーヒーのグラスを置いた。

「おう・・・また夕方から忙しいんだろうな〜。涼む場所と思われてるし」
 この季節、コーヒーを楽しむよりも暑さを凌ぐ客の方が多いので面倒なのだ。
 誰もがアイスコーヒーしか頼まない上に長居する。
 
「・・・涼みに来ただろうって嫌味とか?」
「あ〜〜〜?別には自虐ネタで笑わせてくれるからいいぜ?黙って長居されると、こっちが気ぃ使うんだよな」
 の隣へ座ろうとした瞬間、店の扉が開く。



「こんにちは〜。わ〜〜、ちゃんだ!いい時に来たかも。誰もいないみたいだし?」
「何だ、サンか。勝手に入れば?」
「何よ〜、その態度。お客様だぞ〜〜って、丁度アイスコーヒーがあるね」
 再び座ろうとした将臣を突き飛ばし、まだ誰も手をつけていないアイスコーヒーを奪い取る。

「・・・ヒドイのはどっちだよ・・・・・・」
 諦めての隣へ座ろうとする将臣に、今度は知盛が扉を指差して次の行動を指示する。
「へ〜、へ〜。閉めろって事ね。っとに働かねぇ店長に、我侭な客たちだな〜」
 ぶちぶちと文句を零しながら入り口へ向かう将臣の背中へ向けて、
「そりゃあ・・・未熟で文句が多いバイトくんがいるんだもの。店長の気遣いってやつよ。ね?」
「・・・クッ、クッ、クッ・・・そうハッキリ言うもんじゃない」
 ついに笑い出した知盛。
 何が良いといって、のいっそ無神経と紙一重の正直なところだ。

「・・・あ〜、落ち込んだ。ダメだ。このダメージはデカイ・・・・・・」
 心臓辺りを押さえながら、ようやく座れた将臣。

「ダメージ回復の提案してやるよ。は休みは取れないのか?」
「へ?私?いやぁ・・・取ろうと思えば一日くらいはすぐ取れるケド・・・・・・」
「・・・そう・・・か。だとすると・・・もうココしかないな」
 カレンダーの日付を指差す知盛。
 将臣が首を伸ばしてその日付を眺める。
「何?とデートとか?」
 そう考えていないで言葉が先に出てしまう将臣。
「・・・そうだ」
 知盛の肯定の返事に、誰もが知盛を注視した。





「・・・クッ・・・バカ面ばかりだな。七夕の願いを叶えてやろうってのに」
「七夕〜?・・・あっ!本気で〜?」
 思いっきりの瞳が輝きだす。期待に満ち溢れ、溢れすぎて漏れまくっている。
「えっ・・・知盛さんって・・・まさか・・・・・・」
 は嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「あ?なんだよ、今度はそっち三人だけわかってる風だな〜」
 生け贄の将臣だけがまんまと事態を飲み込めていない。

「はいっ!私はいつでもOKですっ。なので、さんに合わせます!!!」
 小学生のように右手を上げて発言する
「・・・クッ・・・了解。それで?」
 知盛に視線で促がされ、が手元の携帯を見つめる。
「うぅ・・・逃げられなさそうな雰囲気・・・・・・親友に電話して協力を要請してみる」
 窓際の席へと移動すると、こっそり携帯をかけ始める
 なんといっても突然の休暇申請だ。
 仕事の代行者も指名しておかなければ、上司に言い出しにくい。
 こそこそと電話をし、半ば半強制的に拝み倒す。
 の様子を眺めていた知盛とが視線を合わせて頷く。

「ちょっとひとっ走り行ってきます!」
「・・・素早い事で。夕飯も食っていけ」
「了解です!リーダー!」
 バッグを片手で掴むと、店を飛び出す
 まだ将臣だけが一連の流れを理解していない。

「・・・何?また夕食会でもしようっての?」
「まあ・・・似たようなものだな。将臣・・・お嬢さん方へまずは三時のデザートだ」
 カウンター席で肘をついて首を傾げている将臣が、ようやく動き出す。
「何がいいんだ〜?は・・・ケーキ?はなんだろうな〜。アイツ、デザートに煩いからな」
 将臣が練習しているデザートへのダメ出しといったらすごいのだ。
 試食を頼んだのは将臣だが、いちいち細かい。
 シュークリームの練習の時など最悪だった。

「なあに〜?ちゃん、デザートに煩いの?」
 電話が終わった
 知盛へ向かって手で軽くOKのサインを送りながらカウンターの内側に入った将臣の前へ座る。

「うるせ〜って。俺が作ったシュークリームへの批評なんて細かい、細かい。皮はどうだの、カスタードはだの」
「あ〜〜〜、それは・・・将臣くんがヘタって事か。お菓子ってバランスあるよね」
 バラバラで美味しくても、一緒になると違うのがデザート。
 最高級のイチゴを使ったショートケーキでも、スポンジとクリーム次第で味を生かすも殺すもとなる。
「・・・ここにも辛口評論家がひと〜り。何がムカつくって、知盛が作ったのは大絶賛なんだよな」
 またも文句をたれながらの将臣。
 手元で作っているのはチョコレートパフェ、アイスクリームバージョンらしい。
「まあねぇ・・・将臣くんはさ、アイスにウエハースのってるの見たことない?」
「んあ?定番だろ、ちょんってベニヤ板みたいの」
 が顔をしかめる。ベニヤ板というのはあんまりだが、見えなくもない。
「定番・・・っていうのは。それが一番いいって思うから誰もがするのよ。つまり、あれは甘さと冷たさの緩和剤なのよね」
 軽く人差し指を立てて将臣へ講釈を始める。
「基本ってものが何にでもあってね。それさえわかれば何でも出来るんだな〜」
に言われても説得力ね〜。何だよ、あの時のカレーは。すっげー手抜きカレー!」

 と将臣の言い合いに参加する気のない知盛は、ひとり静かに煙草をくゆらせながら部下の帰りを待つ。
 部下も慣れたもので、将臣がパフェを完成させる頃合に戻ってきた。

「じゃんっ!OKです。ただしぃ・・・ちょっとだけお高いですけど」
 閉店のはずの店のドアを気にする風も無く開けて入ってくる
 知盛の前に立ち、両手を広げて前へ突き出してみせる。
「これ・・・越えちゃうトコしかないですけど、いいですよね?」
 勝手にすべて決めてきたらしいのいいっぷりが、これまた知盛のツボに入る。
「・・・クッ・・・事後報告か?」
「もち!だって、あんまり便がないですもん。ちなみにぃ・・・・・・」
 今度は左右二本ずつ指を立ててみせる。
「こんなんです。いいですよね?ほら・・・別に実際どうだって、そんなもんわかりゃしません」
「優秀だな・・・は。もOKだ。後は・・・・・・」
 知盛の前に雑誌程度の袋を出す
「後は・・・後で追加できますので。寝るトコと足さえ確保できれば、後はなんとでも!任務完了です!」
 の隣に座ると、将臣の手元を覗き込む

「あっ!それ、誰の〜?もしかして、私の労働報酬とか?さんも同じのなんだ〜」
 二つあるチョコレートパフェを、自分のものと解釈できる性格が羨ましいものだと将臣が脱力する。
「・・・・・・サンはさ、頭の中、どうなってるんだろうな〜」
「どうって?将臣くんの練習に付き合わなきゃって思ってるよ?ほら、ほら。チョコレートソースが〜〜〜」
 だらりと多目に零れたチョコレートソース。多い方が好きなのだが、多すぎるのも甘ったるい。
「静かにしてくれよ〜。気が散るっての。・・・・・・完成〜、さあ食ってみろって!」
 通常の倍はあろう高さのチョコレートパフェだ。

「うわ〜。パフェなんだか、ソフトの渦なんだか・・・・・・芸術的だねぇ・・・・・・」
 そろりと自分の前へ置きなおすと、長いスプーンで崩しにかかる
「・・・ちゃん・・・全部イク気?」
 さすがのにもひとりで全部は厳しいサイズである。
「もち!だってコレ、アイスですもん。最後は水分ですよ〜」
 ザクザクと小気味いいリズムで切り崩しては口へ運ぶ
 誰もがもう話しかけまいと黙ってその様子を眺めていた。





「完食!将臣くんさ〜、これは商品は無理だと思う。すっごく体冷えるから」
 しっかり食べ終えたが将臣へ感想を述べる。
「・・・いや・・・特別サービスだから・・・だすつもりじゃ・・・ない・・・し・・・・・・」
 食べきるとは考えていなかった将臣。
 も半分は残している。
「ようやく本題に入れるな。・・・・・・」
「あ、そうだった。名付けて!皆で沖縄へ行っちゃおうツアーのご案内は、私、がさせていただきます!」
 立ち上がりながら持ってきたパンフレットを広げる

「はぁ!?」
 ひとりだけ馬鹿口を開けて固まる将臣。



 将臣に構わずにどんどん話を進めてしまうのテンポのよさに誰もが否と口を挟めない。
「・・・・・・と、いうわけで。本島へ行くのと、泊まる場所は以上です。レンタカーだから、運転は?」
「将臣」
 あっさり知盛が将臣を指名する。
「俺か!?いつも知盛がしてるだろうが!」
 将臣が立ち上がって抗議するも、
「俺も夏休みだ」
「・・・俺だって休みだっての・・・・・・ちょっと待て。その部屋割りは・・・・・・」
 突然、さらりと流された部屋割りについて引っ掛かりを覚える将臣。

「あ。部屋ね。時期的に台風シーズンなんだよね。でもさ、まだまだ泳げるわけですよ。でね〜、オーシャンビューなの」
「繋がってねぇ。・・・・・・どうなってんだ」
 を睨むと、今までの勢いはなくなり、声が小さくなる。

「・・・スイートプランだよ。だってさ、いいじゃん、ラブラブで。実際の部屋割りはさ、ほら」
 と知盛、将臣とで予約をしてきたのだ。
 チェックインの時だけ組み合わせを守れば、実際に誰が部屋をどう使おうがバレはしない。

 渋い表情で将臣がを見る。
「・・・誰の差し金だ?知盛か?」
「だからぁ・・・七夕のお願いだよ。・・・読んでなかったの?」
 ぜひ読まれたくて書いた短冊を無視されたのかとあきれてしまう
「悪巧みについてはよ〜〜〜くわかった。で?わざわざ沖縄くんだりまで行って、他は何もしないのかよ」
「だ・か・ら!オプションについて今から話し合いを〜って時間なの。ね?さんは実家に寄る?」
 が飛行機の時刻表をに広げて見せた。

「いや〜、どうしようかなぁ。こんな面白そうな旅行はもう出来なさそうだもんね。実家はいつでも帰れるケド」
 飛行機の時刻は午前と午後に一便ずつしかない。実家の離島へ行くと一日は潰れてしまうのだ。
 時刻表を閉じてへ返す
「今回はいかな〜い。純粋に遊び倒すっ!」
「やった!それじゃ〜、何します?」
 先に決めた者勝ちといわんばかりにオプショナルツアーのページを開いて話を始める
 将臣だけが乗り遅れた。


「将臣。したいことがあるなら早く言わないと運転手で終わるぞ」
 あまりにハイテンションで話し込んでいるの間に入れないでいる将臣の為に知盛が声をかけた。
「ん〜〜〜・・・近くのビーチで泳げりゃいいし。買い物とか興味ね〜〜〜」
「そうか。なら・・・あいつ等キープしろ。面倒が無いように」
 ビーチで知盛と将臣だけでは、知盛にとってかなり不愉快で面倒な事態になりかねない。
 逆ナンの相手をするのは避けたいのだ。

「・・・無理じゃねぇ?」
 どう見ても二人で行く先を決めているとしか思えない。
「・・・・・・俺はホテルで昼寝」
 さっさと戦線離脱宣言をする知盛。
 別に将臣ひとりで海に行くことはやぶさかでないのだが───


「突然ですが、!沖縄といえば海だろ〜〜〜」
 カウンターから身を乗り出して二人の間に割って入った。





 週末は沖縄へ旅立つ四人。何が起きるか、誰にもわからないから面白い。
 カフェ・デ・プラタの夏休みは───








(Printing day:2006.09.18)

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  ラブレター返しの術です、もなか師匠