[ まだまだ夏だね、沖縄! ]
飛行機から降り立つと、亜熱帯特有の湿度を一瞬だけ感じる。
サミットのおかげで新しくなった空港は、中へ入れば程よい冷房によりさらりとしているからだ。
「さ〜て。どこだ?」
「降りたらすぐにレンタカー会社の人の看板探し!」
に指示をされ、将臣があたりを見回せば目的の看板を持つ人物を見つける。
そのままレンタカーの営業所へ連れて行かれ、借りた車は何故か二台。
「・・・俺が運転はわかるとして。もう一台は・・・・・・」
「はいっ!私に決まってるっしょ。地元民だよ?」
さっさと手続きの紙のドライバー欄にがフルネームで記入する。
「・・・誰だよ、命知らずは」
「もちろん、知盛さんだよ。だって、そういう組み合わせだもん」
横からが顔を出して二人の書類の出来具合を眺めている。
将臣がを見上げた。
「・・・何が基準の組み合わせ?」
「そりゃー遊びが基準の組み合わせ。私ってば海に行きたいけど、さんはのんびりしたいだろうし」
行動組と寛ぎ組に分かれたらしい。
「・・・は泳げるのかよ」
「うん。元水泳部マネージャー。そりゃあ、選手みたいにキロ単位じゃ泳げないケド。自分ひとりなんとか出来る程度には」
雨の日にナマケモノぶりを見せられていた将臣としては、の意外な過去を知る。
「・・・見えねぇ」
「爪を隠す見本?荷物ヨロシクね」
にっこり微笑むと、外のベンチへ行ってしまった。
「・・・どこまでも自由な奴・・・はぁぁ・・・・・・」
後は案内を待つばかり。どこに居てもいいのだが、は外であたりの風景を眺めている。
一方のはいつもの見慣れた風景らしく、室内のベンチで座って涼んでいる。当然知盛も中だ。
「まあ・・・の洞察力には恐れいるってカンジ」
外の自動販売機に感激して携帯のカメラに収めているに合流を決めた将臣は外へ出た。
外でぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を眺めている知盛と。
「・・・いいの?放っておいて」
「ああ。見た目は・・・年下彼氏だな」
将臣とを心配しようがないのだ。どちらも相手を仲間としか認識していない。
じゃれあいぶりが知らない者が見れば恋人に見えたとしてもだ。
「ふ〜〜〜ん。ずいぶん信用してるんだね?」
「クッ・・・信用というより・・・は正直だからな。あれは扱いやすい部類だろう?」
煙草を取り出す知盛の手を叩く。
「そ〜んな事言って。沖縄旅行決めた日はさ〜、しっかり任せてたじゃない。・・・車内でも禁煙してね」
「・・・畏まりましたよ。それで・・・は・・・俺でいいのか?」
「そ〜ね〜?自販機のドリンクであんなに騒ぐお子様とじゃ疲れるしね!」
結局が一本買ったらしく、二人で分け合って飲んで味を試している。レベルは小学生並だ。
「シークワーサーはいいけど、ゴーヤーはなぁ・・・ちょいちゃんには危険な気がする。止めに行ってくる」
「親切な事で」
まだまだ自販機の前で買い込みそうな二人を止めに行った。
国道58号線上を北上する。海を見ながらのドライブだ。
あえて本島の中央にある有料道路にはのらないコースをたどる。
「うひゃ〜〜ん!夜は北谷に来たいなぁ。色々あるんだよね。去年友達と来た時にね、可愛いサンダル買ったんだ〜」
「わざわざ沖縄で買うなよ・・・そんなもん・・・・・・」
旅先で荷物を増やす理由が将臣にはわからない。
「ダメだな〜。郷に入ってはだよ。沖縄を満喫しなきゃもったいない。水着も沖縄だとカラフルなの欲しくなるよね〜」
「へ〜〜〜。ビキニとか?」
「あのね・・・高いよ?私のビキニ姿は。普通にワンピ」
「ケチくせ〜〜〜。少しはサービス・・・・・・」
窓の外を見ていたが将臣に向き直る。
「将臣くんにサービスしても意味ないし。出会いに期待して、ホテルに着いたら自由行動でしょ〜〜〜」
まったくもって弟扱いである。
知盛に出会う前は、普通に女の子を恋愛対象にしていたのだが、今となってはどちらとも言い難い将臣。
(・・・なんか・・・わかんねぇ・・・・・・でもなぁ・・・・・・)
男と女の友情は成立するかで盛り上がっていた時を思い出す。
高校生の頃は幼馴染の望美が気になっていた。譲も同じ気持ちだったようで、どうにも気まずい兄弟関係になっていた。
今ではまったくあのぎくしゃくとした気まずさは譲との間に無い。
(そう、そう。うっかり知盛をお持ち帰りした時からか・・・・・・)
異世界で恋仲となりこちらへ戻った知盛と将臣。
戻れば年齢は戻らず、かといって環境だけは戻ってしまった将臣。
白龍の力を使って周囲の記憶を調整してもらい今に至る。
伸びた髪を切りたくなかったのだ。知盛と過ごした時間分伸びた髪を。
(ま・・・髪も束ねりゃ邪魔にはならねぇし・・・・・・)
すっかり長くなった髪を後ろでひとつにまとめるのが最近の習慣になっていた。
「ほらよ、着いたぜ。とりあえずチェックインか?まだ無理だろうな〜。荷物だけ置いて、行き先決めるか」
「だね。すっごぉーい。白亜のお城みたい・・・・・・」
駐車場に車を止めて中へ入ると、白い石造り、かつ、窓が横に広くすべて開くようになっている。
青い海を切り取ったような風景が拝めるロビーに、籐細工のチェアー。
「ここ・・・初めて。うわ〜〜、パンフレット通りだぁ・・・・・・」
案内されて座った場所でそのままチェックインの手続きだけ先にしてもらえた。
「ね、最初は北へ行って、こう・・・帰ってくるのは?明日は首里城だよね。それとも、午後にそのまま行っちゃう?」
ドライブガイドを片手に、テキパキとコースを決める。
残り三人は、そうプランを立てて頑張るタイプではないので、言われるがままに頷いているだけだ。
パイナップル園へ行っては、そのパイナップルの小ささと、畑にある状態に驚いて喜び。
水族館と植物園では、その敷地の広さにくたびれといった半日を過ごして再びホテルへ戻ってきた。
「とてもじゃないけど、明日の朝のイルカちゃんと泳ごう・・・頑張れるかな〜」
「ば〜か!何のために予約したんだよ。行くんだっての」
将臣に軽く頭を叩かれながら先を歩く。
後からは、運転が久しぶりだったらしいうつろな目をしたと、まったく余裕の知盛。
お互いの部屋の前に着くと、しっかりとパートナーがチェンジされる。
「それじゃ〜、夕食の時に!」
さっさと部屋へ入るとを見送ってから、知盛と将臣も部屋へと入った。
休みたいに対し、ハイテンションの。
明日は朝からイルカと泳ぎ、海で泳ぎ、午後は琉球ガラスを作り、首里城と玉泉洞を予定に入れている。
しかも、夜は夜で北谷へ行きたいらしい。
「・・・ちゃん・・・ガラスは私とだよね?」
「そ〜ですよ!可愛い一輪挿しとか作れたらいいなぁ〜」
本日はホテルで夕食の予定だが、翌日の食事をする場所をガイドブックでチェックしまくっている。
「・・・後は将臣くんとだよね?」
「どうかな〜?将臣くんとは海で泳ぐだけがいいかなって。ほら、ここまできたら二人にしてあげないと」
「そっ・・・そっか。うん・・・頑張るよ」
そのままベッドへ沈む。
久しぶりに握ったハンドルは、中々に大変だった。
の知らない道路が新しくあるために、案内どころか目的地までの感覚までもが狂っているのだ。
「・・・ちょっと・・・寝る」
「は〜い!じゃ、私はホテルの中を探検してきま〜す。鍵はもってるから大丈夫ですよ?」
カードキーを一枚ポケットに入れると、静かにドアを閉める。
まだまだ夕方の時間なのだが、には朝からの大移動は大変だったらしい。
「私はペーパーちゃんですからね〜。運転なんて自殺行為だし?」
カメラ片手にくるくるとホテル内を歩き回り、レストランの下見もして時間を潰した。
一方の知盛たちの部屋では、部屋中を見て回る将臣に対し、いきなりベランダの椅子に座って煙草を吸い出す知盛。
に禁煙令を出されたために車内で吸えなかったのだ。
「お〜い、知盛。なんか飲む?オリオンビールってのが入ってるぜ〜〜〜」
缶ビールを知盛へ手渡すと、ベランダから海を眺める将臣。
「まだまだ明るいな〜、こっちは」
「・・・ああ」
「何?疲れたとか?」
知盛の前の椅子に座ると、テーブルに肘をついて知盛の顔を覗き込む将臣。
「いや・・・・・・お前と海を眺めるのは・・・・・・な」
「まぁ〜な。向こうの思い出はちょっとな。でもいいじゃん!沖縄、修学旅行以来だぜ〜。この青い海でダイビング!」
嬉しそうな将臣を見るのは、知盛にとっても嬉しい事だ。
ただ、それを知られるようなヘマはしないだけの話。
「まあ・・・と行け。泳げなくもないが・・・疲れる」
「へ〜、へ〜。お年よりは労わってやるよ。のつまんね〜水着拝んでくるわ」
ワンピースといわれただけで楽しさ半減である。
「・・・クッ・・・死にたいのか?の前で言ったら大変だな・・・・・・」
「沖縄っていったらビキニだろ!?普通と言われちゃなぁ。俺だって綺麗なオネエサンを眺めるのは好きだぜ?」
知盛が飲んでいた缶ビールをテーブルに置く。
「将臣は・・・・・・」
「言っておくが。俺にとっては知盛が特別なんだからな?そこんとこ勘違いすんなよ。以上!」
将臣はまったく後悔などしていない。むしろ、知盛が後悔していないかが心配なのだ。
「・・・クッ・・・了解。それでは・・・青い海を見られた記念に・・・頂くか」
「は?」
夕食の前に軽く一戦をこなすはめになった将臣。
何が困るといって、知盛が体力を温存していたらしい事に困った。
「起きられるか?」
「・・・だったら手加減しろよ。メシ・・・遅れると煩いだろ、あいつ等」
約束の時間まであと一時間。食事に煩い女性陣を待たせると文句が多そうだ。
這うように起きだすと、先にシャワーを使う将臣。
その時、ベッドサイドの電話が鳴った。
始めは無視するつもりだった知盛だが、とりあえず出ることにして受話器を持ち上げる。
「あっ・・・もしもし?知盛さんだ〜。夕飯キャンセルしてもいいですか?」
知盛がひと言も発していないのにしっかりわかっているらしい。
「・・・どうした?おやつでも食いすぎたか?」
「あ〜〜、おしい!あのね、行きたいお店があるの。だからさんと行ってくる!」
知盛たちを誘おうとしないの気遣いが可笑しく、つい笑ってしまう。
「・・・クッ、クッ、クッ・・・どうした?らしくないな」
「え〜〜、らしいでしょ?将臣くんが出たら誘ってあげるつもりだったもん。それじゃ!」
先に切られてしまっては勝手について行くとも言い難い。
受話器を静かに元に戻すと、額を抱えて笑い出す知盛。
ちょうど将臣がバスルームから出てきた。
「・・・何?テレビ・・・はついてないよな。俺もまだ笑われる予定じゃねぇぜ?」
頭にタオルをのせて、バスローブを着たままで将臣がベッドへ腰掛ける。
「いや・・・とはお買い得だって事だ」
「はあ?買うって・・・あいつ等高くつくぜ〜。知盛は何を作っても褒められるからイイケドさ〜」
将臣が作ると、何を作っても斬新だの前衛だの言われ、なかなか合格点がもらえないのだ。
それでも残さず食べてくれるのが嬉しかったりするのだが、それもわざわざいうものでもない。
「綺麗になったところで・・・・・・いただくとするか」
再び知盛に挑まれ、啼かされて夜を迎えた将臣。
こちらの夕食は、まんまとルームサービスにまで格下げとなっていた。
翌朝は知盛に蹴られて目覚めた将臣。
「ほら・・・イルカとデートなんだろう?」
「くそっ・・・・・・手加減しろって言ってるんだ・・・・・・、待たせちまうな〜」
よたよたと起き上がると支度を始める将臣。
イルカと往復泳げるプランを申し込んだのだ。
「・・・・・・行ってくる。朝飯・・・と先に食っててもいいぜ?」
「ああ。行って来い」
将臣を送り出すと、再び眠りにつく知盛。
将臣が活動中でも知盛は休んでいるのだ。体力の差はここからきているのだが将臣は気づいていない。
(可愛い仔猫を喜ばせないとな・・・・・・)
まったくもって将臣にとって迷惑でしかない目標を掲げて、知盛は海を眺めるよりも睡眠をとった。
も似たようなもので、を送り出すとベッドでしばらくゴロゴロと転がっては朝の涼しさを味わう。
懐かしいすこし湿った風が吹き抜けるベランダの窓を開け放つだけでいい。
「イルカと泳いだことはないなぁ・・・考えみれば、沖縄っポイことしたことないや」
手ぶらで家から海へ泳ぎに行った幼い日々。
イルカと泳ぐのは、沖縄で誰もが出来る事ではない。イルカは完全に観光のためにあるのだ。
「・・・考えようによっては・・・ちゃんが一番楽しんでるかも。あはは。なんかわかるな〜」
どこへ行っても楽しむのであろうを思い浮かべるだけで笑いたくなる。
「ど〜してあんなに面白いかな、彼女」
知盛が扱いやすいと言っていたが、頷ける。
「朝ご飯・・・かぁ・・・・・・待ってよっと。知盛サンと二人はお世話される方が照れそうだし」
枕を抱えると、もう一時間だけと眠りについた。
「・・・はよ」
「うわ〜、寝癖付で・・・・・・居眠り運転しないでね?」
目を擦りながら頷く将臣。
「問題ない。なんとかいける。いくぜ〜〜〜」
「うんっ!イルカちゃんとデート〜〜〜」
行く前から期待が高すぎたのだろう。
実際は近くのホテルの前の浅瀬、プールにすれば50メートル程度を往復一緒に泳げるだけ。
「え〜〜〜・・・一瞬だよ、こんなの」
係に文句を言いそうなの口を慌てて塞ぐ将臣。
これでイルカの調子が悪いと泳げなくなるのだ。今日は予定通りに泳げそうなだけでも御の字。
「黙れ。イルカと並んで泳げるんだ。ありがたぁ〜く泳げっての」
「はぁ〜い。いいよ、後は眺めて我慢するから」
切り替えも早いことに、さっさと泳ぐ順番の抽選に参加していた。
先に泳がないと、イルカは段々疲れてくる。それこそ中止もありえるのだ。
の見事なくじ運により一番手を手に入れた将臣と。
「やった〜〜〜!さっさと泳いで見学する時間もあるよね〜。お先っ!」
海へ入って体を慣らすと泳ぎ始める。
ワンピースのタイプの水着の理由も納得だ。
「・・・そりゃあ・・・取れたら大変だわな。そんなにバリバリに泳いでちゃ。俺もいくかっ!」
静かに海へ入ると将臣も体を慣らす。
すぐにイルカのいる策内へ移り、係と共に短いながらも往復を添うように泳いでイベントは終了した。
「ご飯ですよ〜ってば!さん!!!もうお腹がぐるぐる鳴ってるんだから起きて下さい!」
叩き起こされるという表現以外に考えられない起こされ方をした。
「はい・・・ゴメンナサイ。すぐ支度します」
確かにお腹は空いている。ただ、今すぐというほど逼迫してはいないがの形相には負けた。
「こっち、こっち。寝てたな〜?」
将臣が立ち上がって手を振り、テーブルの場所がわかる。
先に食べ始めていたらしい知盛と将臣。
「・・・ゴメン・・・気が緩んだ。地元だもん、つい・・・・・・」
ぺこりと頭を下げて椅子に座る。首が揺らついており、まだ半分眠っている。
「おはようございます!もう食べてるんですね〜?私も取ってこよ〜っと」
を置き去りに、はさっさと一番大きなプレートを手に取り、料理を選んでいた。
「・・・クッ・・・の分、将臣が選んでやれ。このままじゃ断食だ」
「何食うかわかんないぜ?飲み物だけ取ってくるからな」
将臣がのコーヒーとフレッシュジュースを取りに行く。
「・・・ごめんなさいよぅ・・・朝・・・回線繋がってなくて。な〜んだか本気で気が抜けてる」
へにょりとテーブルに突っ伏す。知盛がその後頭部を軽く数度叩いた。
「まあ・・・犬には楽しいだろうが。猫は休息だな」
「それって、あの二人を犬って言ってる?」
が顔を上げて将臣とを見る。
たくさんの料理の前で悩むを将臣がからかっている。
「さあ・・・な。この後泳ぎに行くらしい」
「知盛さんは行かないの?」
「・・・疲れてどうする。休みに来たんだ」
「へ〜〜〜。将臣くんは疲れそうだねぇ」
再び突っ伏していると、将臣とが戻ってきた。
「さんにはコーヒーとグレープフルーツジュース。知盛にはコーヒーのおかわりもらってきた」
「私はね〜、もうデザートも取ってきたの。パンも選べなくて大変で〜。結局パンケーキにしちゃった!」
さっさとフォークを手にとり食べ始める。
「・・・クッ・・・イルカとデートはどうだったんだ?」
「ん〜?ゴムっぽかったケド、きゅうきゅう可愛かったですよ」
顔を上げたのはこの一瞬だけで、再びプレートに向かって真剣に食べ始める。
「・・・知盛、無視されたな?」
「返事してくれただけでもマシじゃない?この子・・・かなりお腹空いてたみたいね」
食べる順番は無茶苦茶だ。何故かデザートであるべきヨーグルトを食べている。
突然、立ち上がる。
「ダメだ、コーヒーじゃ。紅茶!紅茶がいい」
残された三人は呆然とする。
「・・・何故に紅茶?」
「さぁ・・・な。コーヒー・・・では何かが不満だったのだろう」
「朝の習慣じゃない?いつもと違う場所で忘れちゃったとか」
戻ってくると、何事ったかのように続きを食べ始める。
ゼリーまで追加され、の座る一帯だけが料理の皿で埋め尽くされていた。
食事が終わると知盛たちの部屋でコーヒータイムとなる。
「インスタントでもさ〜、知盛さんと将臣くんがいるとコーヒーな気がするね!さん」
「あ〜、それわかるかも」
頷くに対し、将臣が首を傾げる。
「・・・壊れてねぇ?さっきもさ・・・・・・」
「いや、いや、いや。パブロフの犬なわけ。ま、そんなのはいいんだけどぉ。海はいつ行くの?」
がのん気に尋ねると、将臣が、
「今からでいいんじゃねぇ?明日も天気がいいとは限らないからな〜」
「じゃ、皆で行きま・・・・・・」
「不参加・・・・・・」
知盛に掛け声を遮られた。
「いきなり団体行動乱した〜〜〜」
不満の声を上げる。
「どうしたんだよ、知盛。海・・・いかねぇの?天気もいいしさ、ココから歩いていけるぜ?」
ホテルの庭を抜ければ目の前が海である。手ぶらでいってもいいぐらいだ。
「・・・の水着が気に入らん」
「はあ?いつ見たのよー、そんなの。今朝いなかった・・・将臣くんっ!」
くるりと首の方向を変えて将臣を指差す。
「なっ・・・そりゃ・・・だーーーっ!どうしてこうなるんだっ。だったらだってさ〜、泳ぐんだろ?」
「え〜〜〜。泳げないもん」
あっさり泳ぎは不得手であると告白する。
「はあ?この四方を海に囲まれた土地で生まれて育って泳げない〜?嘘吐くなっての!!!」
「海は浮かべばいいんだもん。泳ぎは別だよ〜」
あまりといえばあまりの言いように将臣が椅子からずり落ちた。
「そう・・・だな・・・も・・・麗しい水着を披露してくれるならば・・・な」
ここは知盛たちの部屋だ。さっさと煙草の箱を取り出して火をつける。
「うわ〜、知盛さんって協調性ゼロ。そんなんじゃ楽しみ半減の人生ですよ〜。カワイソ」
手団扇で肩を竦めながら早々と諦めたらしい。人の人生まで語りだす。
「こら、こら、ちゃん。こちらには、こちらの事情ってもんが・・・・・・」
が会話に割って入る。
黙って知盛が将臣に財布を渡した。
「何?財布・・・・・・」
「買って来い。こいつらの水着。そりゃもう・・・魅惑のボディーを拝ませていただくぜ?」
珍しく挑発に乗ってきた知盛に将臣の方が驚きだ。
「・・・水着って・・・・・・とのか?今の時間じゃどこで・・・・・・」
「一階の隅にあるんだよ。温水プールの前で売ってた。ここね、屋内の施設もけっこう整ってるの〜」
が上目遣いに知盛を見つめ、心得たとばかりに微笑んでみせる。
「・・・ちゃん。なんだが・・・この会話の流れではめられたのって・・・私・・・とか?」
「え〜〜〜っ。そんな事ないですよ。そりゃあ私ってば・・・休み前にしっかりダイエットしてましたケド!」
あっさり将臣の手から知盛の財布を奪う。
「では、行ってきまーす!さんにはとびきりセクシーな水着を昨夜選んでおきましたっ。後は試着のみ!」
「ぎゃあああああ!!!いやああああああああああ!!!」
ぐいぐいとの手を引いて部屋を出て行く。
またも将臣は開いた口が塞がらない。
「・・・犠牲者一名が出たような・・・・・・」
「さあ・・・海辺で寛ぐには付録が必要だからな」
「あ〜〜〜、お前か、首謀者は」
将臣が知盛の上にしっかり座る。
「いつそんな暇が?・・・朝食の時までとは昨日から顔も合わせていないが?」
黙っているだけで、考えが通じるのが面白いのだ。
将臣とは格好の餌食である。
(・・・相手が悪かったな・・・・・・の方が形勢不利なんだぜ?)
一見知盛が何もしていないように映っているだろうが、の考えと知盛のしたい事はほぼイコール。
は残念ながら“観察”に重きを置こうとしていたために巻き込まれる側になってしまった。
(まあ・・・そのうちもこちら側だ・・・・・・)
みんなの玩具の将臣が壊れない程度に独占しようと、いちおうは知盛も気を使っていた。
「海だ〜〜!」
「わ〜〜〜い!!!」
ホテルのプライベートビーチで転げまわる二人。言わずと知れた将臣と。
ただし将臣に限ってはシュノーケリング等持参である。
何が情けないといって、の手にある浮き輪だ。
「ちゃん・・・本気でそれ必要?」
「だって〜〜〜、掴まってダラダラが楽だもん。板状よりこっちの方が便利なんですよ〜。将臣くんに引かせるし」
浮き輪についている紐を見せる。
「・・・おい、おい。俺は救助犬じゃないっての。ま!知盛とはそこで寝てれば〜。じゃあなっ!」
手を振りながら海へ入り、どんどん姿が小さくなる二人。
「あらら。確かに犬なんだわ・・・・・・」
諦めて知盛の隣へ転がる。
イスもパラソルも最初から準備されているので、場所取りもかねて荷物は隣へ置いた。
知盛はもうビール片手に読書の体勢を整えつつある。
「本気で水に入る気ないですねぇ?知盛サンは」
「まあな。これでものボディーガード兼務中だ。バスタオルが邪魔だがな」
泣いて拒否したセクシービキニだが、下が短パン付なだけで結局はデニムタイプのビキニとなってしまったのだ。
は体にバスタオルを巻きつけて隠し、イスに寝そべっている。
「いえ、いえ。お見苦しいかと、これでも気遣いをですね〜」
こちらもビールを手に取り飲みだす。
朝から出来る贅沢に、七夕の願いがかなったとホクホクだ。
「魅惑の・・・とはいかずとも・・・・・・楽しい気持ちにはさせてもらえたぜ?」
「あ〜〜〜、タラシっぷり発揮ですか〜。私にするより他にして下さいね〜。それにしても、ちゃんと見事な連携プレーね?」
ひとりで水面に浮かんで漂っている小さな姿を手をかざして探し出す。
「別に・・・昨夜はどこへ?」
「ああ。私の知ってる沖縄そばのお店。残念だったね?」
「そうか・・・にふられたからな・・・・・・」
勝手に通話を切られてしまったのだ。
「あはは〜!知ってる。もうね、ガシャンって楽しそうに切ってたもの。・・・悶えてたよ?」
クッションを叩いてに報告していたのだ。
将臣が電話に出ないって事はお疲れですね〜とはしゃぎまくって。
「・・・クッ・・・参謀タイプだな、アレは」
「言ってやろ〜。知盛さんにも対抗するかもね〜?」
時々思い出したように会話をしては海辺の景色を楽しんだ。
「にゃろ〜〜〜、上がれっての!水は体力消耗すんだよ!!!」
「いや〜〜〜っ!」
浮き輪をはめたままのをずるずると引きずるようにして知盛たちの前へ連行する将臣。
めったに見られない青い海から上がりたがらないのはの方だった。
「この〜〜〜!少しは水分とって休めっ!」
「うひゃっ!」
まんまと両手を砂浜についてしまったは、腹立ち紛れに将臣を力いっぱい突き飛ばした。
「女の子は大切に扱いなさーーーーいっ!!!」
「うおっ?!」
知盛に倒れこむ将臣。キスするの図、完成───
周囲の視線を釘付けの二人。
もともと将臣とが騒いでいた時点で注目を浴びていたのだ。
冷静に対処したのは知盛だった。
「・・・クッ、・・・お前はアッチ」
指で将臣が座るべきイスを指示する。
「・・・はい」
素直に頷いて将臣はイスへ座った。
知盛は立ち上がるとへ手を貸し、その隣のイスへ座らせる。
「お嬢さんは・・・・・・悪戯が上手いな?」
「将臣くんが悪いんですぅ〜だ!もう少し遊んでたって平気なのに」
ついと顔を背けておかんむりだ。
「手の砂落としてきます」
が水場へ駆けて行く。
「あらら〜。もう喧嘩?」
が起き上がると、の座っていたイスに知盛が座る。将臣はさらにその隣にいる。
「・・・将臣。事故ってやつだ。お前もそうむくれるな」
知盛との関係には納得がいっているようだが、他人の目をとにかく気にする将臣の為に外でのキスは控えていたのだ。
「別に。事故だもんな」
視線を一度だけ知盛に合わせると、顔にタオルを乗せてしまった。
「・・・ちゃんが心配だったんだよね?あ〜んなのとかも海に来てるし」
いかにも大学生のナンパも目的ですといわんばかりの団体が増えたのだ。
「・・・年食ってるからなんて圏外」
「何ですって〜?!失礼なっ」
のしっと音がしそうなほどの勢いで将臣の腹に座った。
「・・・どこ座ってんだよ」
「文句なら知盛さんに。座るトコないんだもん」
将臣の顔のタオルを取り、さっさと自分の髪を拭きはじめる。傍目には仲直り成立といったところだろう。
「これで・・・拗ねてるのは将臣だけだな?」
知盛が将臣へ向かって口の端を上げてみせる。早めに機嫌を直して見せないと、今夜は地獄のコースが待っていそうだ。
「まあ・・・のケツの感触で手を打つか!」
「打たんでいいっ!」
ぺしりといい音を立てて将臣の額への平手が飛んだ。
「あはははははっ!面白すぎっ・・・し、しぬっ・・・・・・・くううっっ」
が将臣とにジュースを手渡す。
「ありがと〜、さん・・・って、お酒飲みましたね〜?!」
「あ、バレた」
慌てて口を手で隠すが、既にビールは三本消費済み。
「待てっ!ってことは・・・俺に決定?」
が運転できないとなれば、自動的に運転手はひとりしか残らない。
「足がないと遊べないよぅ。将臣くぅ〜ん。ね?」
せっせとタオルで将臣の体を拭いてやる。みえみえのゴマすり振りが知盛の笑いを誘う。
「・・・クッ、クッ、クッ・・・もう少し色気を使えよ、ゴマするならな?」
「ええっ?!今のダメ?すっごく気合入ってたんですけど・・・・・・ダメだしですかーーーっ!!!」
ホルターネックの上はいいとして、スカートつきの状態なのだ。
「それ・・・取らないと将臣も楽しくないだろうな?」
「だ〜よね〜!ダイエット成功のちゃんっ!」
「ひゃうっ!なっ、何事!?」
スカートのサイドリボンをまんまとに外される。
「何事って・・・もう少し可愛らしい反応しろよな〜。いいぜ。午後からは全員でのプランに付き合うし?」
「・・・さんの・・・裏切り者ぉぉぉ!!!」
素早くの腰に巻いていたバスタオルを取ると、が駆け出す。
「なっ・・・ちょっと!待て〜〜〜っ!!!」
その後を追いかける。
が、勝敗は目に見えている。
「クッ・・・あれじゃアルコールがまわるだけだな」
「だよな〜。何なんだよ、あいつ等って」
肘枕で起き上がった将臣と知盛の視線の先には浜辺で転げまわる女性陣二名。
「オネエサマ方だ」
「あ〜〜〜、忘れてた。そうだったっけ・・・・・・」
本来の旅の目的を大きく逸脱しつつ、午後は普通の観光旅行と買い物ツアーになった沖縄二日目。
夕方からは北谷の夜店で買い食いツアーに成り下がる。
ロマンチックは消え失せたままで日が暮れた。
「夕飯無理ぃ〜!ジャグる。私ってば屋内のプールで遊んで消費しま〜す!」
またもが自分の行動だけを先に宣言する。
「あ、それいい。俺もプールに行くか〜。知盛とは?」
将臣がホテルの廊下を歩きながら振り返る。
「私はジャグる派〜。泳がないなら行ってもイイかな」
「・・・俺は」
不参加と言い出しかねない知盛の腕を取り、が先に返事をする。
「隣で柱のように!ええ!私がいつ眠って沈んでしまうかわからないから!」
「・・・クッ・・・だそうですよ」
部屋でのんびりと思っていたが、仲間と過ごしてもかまわないと思い直した知盛。
「んじゃ決定な〜。水着もってすぐに集合だな」
一番嬉しいらしい将臣が真っ先に部屋の扉を開けて駆け込む。
「・・・すまないな」
「んにゃ〜?お腹の贅肉は敵ですから。将臣くんの為じゃないですよ〜だ」
も隣の部屋のドアの鍵を開けて入る。
「・・・素直じゃないね〜。ねっ?」
「クッ・・・ジャグジーだけなら部屋でもいいんだがな・・・・・・」
「いえてる」
泳ぎ足りないであろう将臣への気遣いは明らかなのだ。
狭くてよければ部屋にもジャグジーはあるのだから。
何気に子守が上手いなと感心してしまう。
「まだこんなトコでしゃべってんのかよ。置いてくぞ。・・・あ、。のろまはいいから泳ごうぜ〜」
「お〜っ!食べすぎで怖くて体重計にのれないよぅ」
「んなの、あったか?」
「あった、あった。しっかりバスルームに置いてあるのよ、これくらいの・・・・・・」
二人で話しながらさっさとエレベータホールまで歩いて行ってしまった。
「クッ・・・大人は・・・遅れて参りましょうか?殿」
「・・・単に面倒っていいなさいよ、知盛さん。この後お部屋のジャグジーに二人で仲良く浸かればいいじゃないの」
こちらはかなり遅れて屋内プールに参戦した。
ビート板と呼ばれる板を借りて、頭を乗せて天井を眺めながらプールに浮かぶ。
家族連れなどが疎らにいるだけで、人が少ないので泳ぎやすい。
「プールの天井がガラス張りってさ〜、地震がきたら、アレが割れて落ちてくるんだろうな〜〜〜」
の頭上に波が立ち、将臣が水から顔を出した。
「ぼけ〜っとしてんな〜。それでカロリー消費されんのか?」
「水中を歩くのがいいらしいんだけど〜、リラックスにはこっちがいいらしいのよ。めったに出来ないよ、こんなの」
プールというものは面倒なものなのだ。屋外で泳げる季節は日焼けが心配だし、子供が多い。
会員制のスポーツクラブは案外狭いプールだし、高級ホテルのプールまで行くほど泳ぎたいわけでもない。
「まあな〜〜〜。俺も、こんだけ泳ぐとさすがに体が冷えてきた。ジャグジー行こうぜ?」
将臣がのビート板を奪うと、体がくの字になる。
「うわっ!やだっ、足付かないんだよ、ここ」
将臣に沈められ、慌ててしがみ付く。
五十メートルプールはすり鉢状で、中央はかなり深いのだ。
「だっせ〜〜。ほら、負ぶされ。向こうまで歩いてやるから」
「うん」
夏休みのお父さんと子供の様な光景だ。
そんな二人を少し離れた場所のジャグジーから眺める視線が二つ。
「あら〜、お父さんしてるねぇ」
「・・・お兄さんにしてやれ」
「だ〜ってさ・・・あはは。笑える〜。これだけ朝から海でもプールでも泳いだら満足じゃないかな〜?」
知盛たちに気づいた将臣が、背中にを背負ったままジャグジーの方へ歩いてくる。
「楽しければ・・・いいさ・・・・・・」
「お父さんはこっちか!ですね〜」
が知盛を肘でつついた。
「よっ!さん、これ引き取って」
の隣にを落とし、その隣に座る将臣。
「あらら。こんなに冷たくなっちゃって。ちゃん、体は温めなきゃだよ〜」
「だ〜って、手足伸ばしたい放題ですよ?うぅ・・・背中の泡の位置がチガウ」
ずりずりと座る場所を調節する。
「さんはいいな〜、知盛さんに支えてもらってて」
泡の圧力で前に押し出され、少しばかり支えが必要だったりする。
「あ、私の柱担当だから。寄りかかっても何してもOKという、大変便利なものでございます」
ぺしぺしと知盛の肩を叩いてみせる。
「・・・わかったよ。ほら」
「ん。いわなきゃしてくんないのがサービス悪いよ、将臣くん」
えらそうに将臣に寄りかかりながら目を閉じる。
「あら〜。一番のお疲れは将臣くんかと思ってたけど。・・・夏休みのコドモがいたねぇ?」
が知盛の方を向くと、知盛は一瞬見ただけで別の方を向く。他に気になるものがあるらしい。
「夏休みのコドモ!上手い、。休みに張り切りすぎて、学校始まってヘトヘトのタイプだな。あははは〜!」
半分寝かかっているを支えつつ、将臣も天井を仰いで寛いでいると、ジャグジーに人員が増えた。
「いいね〜、カノジョ持ちは。俺たちサークルで来たんだけど、男あまってるんだよな〜」
このホテルは案外値段が張るのだが、離れにコテージも用意されている程の広い敷地を誇っている。
人数が集められれば案外安く上げられなくもないため、この手の存在はありえなくは無い。
「年上彼女とデート中?旅費も出してもらえていいね〜」
将臣とがターゲットらしい。知盛たちは別と勝手に判断したようだ。
将臣が言い返そうとする前に、が将臣の上に寝ぼけながら跨った。
「・・・抱っこ」
「・・・・・・寝るなよ・・・っとに」
落ちそうになる背中を支えつつ、視線は不埒な四人組から逸らさない。
知盛もいるから気にする事もないのだが、女性陣に怪我はさせられない。
相手の出方を窺っていると、さらにが将臣の首に腕を絡めてくる。
「ね・・・しないの?」
「・・・・・・、ここ・・・どこだと思ってんだよ」
ようやくが首を持ち上げて周囲を窺い始める。
「あれ?・・・失礼しました。お部屋行こう?」
その場の空気をうやむやにさせられ、将臣はを抱えて立ち上がる。
「ほら!目を覚ませっての。女の更衣室へは入れないんだよ、俺は」
ここでようやく知盛が動いた。
「。アレの面倒みてやれ。俺は・・・・・・少しばかり用事がある」
「あ〜〜〜、嫌だよ、このお父さんは。マジギレしないでよ。・・・よいしょっと」
ジャグジーから上がると、を貰い受けて更衣室へと移動する。
この後の事は考えなくとも結果は見えている。
(お父さんは体力余ってるんだからさ〜・・・・・・タイミング悪かったね)
哀れな学生の運命に両手を合わせつつ、の演技に拍手を送る。
「そろそろ普通に自分で歩こうね?」
「バレてました?」
「うん。私と知盛さんには。将臣くんは本気で心配してるかもね」
と腕を組んで歩いていたが、女子更衣室の中ではしゃっきり自分の足で歩いていた。
「ん〜。喧嘩は両成敗とかいいますもんね。ほら、後が面倒でしょ?知盛さんだと、面倒すら粉砕してきそ〜だけど」
「そこまで計算したか。あはは!なんだかなぁ。昼間もね、あいつ等海にいたんだよ。だから将臣くんが・・・・・・」
「そ〜だったんだ。そっちは気づかなかった!だって・・・海の中が見えるんですよ〜。透きとおってるのって感動で」
軽くシャワーを浴びて髪を乾かしてから外へ出ると、知盛と将臣が待っていた。
「よ。起きたか?」
「起きたよ〜。さんが・・・往復ビンタしたんだよ〜!」
「三流女優だよ、その演技じゃ。はい、はい。さっさと酒飲みに行くよ〜」
泣き真似をするに、がツッコむ。
「う〜ん。確かに喉が渇いた〜。知盛さん、ご褒美ちょーだい」
しっかり強請る先を心得ている。
「・・・クッ・・・まとめてこっちの部屋に来い。カクテルが作れる準備をさせてある」
「やった〜!」
「そ〜なんだ。スペシャル作ろうかな〜?」
三人の視線がに集中する。
「・・・さん・・・何をブレンドする予定?」
「え〜っと・・・綺麗な色になるように・・・かな?」
途端に誰もが視線を合わせないようにエレベーターを降りる。
「あの・・・急に静かになると、困るんですケド・・・・・・」
三人の後ろからがひとり着いて歩く。
「・・・色って、色は・・・・・・何色ってわかってんのか?」
「途中から変だな〜って、どんどん足しちゃうからわかんないけどね!えへっ!」
「かわいこぶるなーーーーーっ!それはちゃんぽんと変わらんっての!俺のデザートの批評の前に、のセンスがおかしい」
将臣がの頭を軽く叩いた後に背中を押して部屋へと案内する。
「色・・・か。混ぜると上手くいくこと、少ないですよねぇ・・・・・・」
しみじみと呟く。
「そう深く考えるな。入れ」
知盛が最後に部屋へ入ると、沖縄ツアー初めての飲み会らしきが開催となった。
「こぉ〜んなセット貸してくれるんですね〜。ってことで、モスコミュール!」
「俺もしたいぞ〜。知盛、教えろ〜〜〜」
知盛が作ろうとしている所へ割ってはいる将臣。
は既に独自にカクテルのシェーカーにブレンドを始めている。
「さ〜ん。それ・・・考えて入れてます?」
「へ?いや〜、これ、中が見えないから・・・勘」
これ以上の質問は危険だとがその場を離れる。
「はこっち。これってウォッカベースだったんだな〜。大酒飲みめが」
の前へグラスを置く将臣。
「・・・分量さえ間違っていなければ大酒じゃないって。・・・・・・うまうま〜」
「何先に飲んでるんだよ。協調性がないっつうか・・・・・・」
「好きに飲まなきゃつまんないって!でもぉ・・・乾杯はしなきゃだっかなぁ?」
将臣が呆れて項垂れていると、手際よく知盛が将臣と自分の分のブルー・ラグーンを用意する。
「わ〜〜、それ・・・キレイ・・・・・・」
沖縄の海を思わせるカクテルの色。
「さて・・・問題は嬢だな・・・・・・」
気合でふりまくったシェーカーから出された液体は、正直七色には程遠い出来栄え。
「あれ?予定では・・・ピンクぐらいになるはずだったんだけどな〜」
首を傾げつつもレモンのスライスを入れてみる。
「それじゃ〜、乾杯しようぜ〜。楽しい沖縄旅行にかんぱ〜いっ!」
将臣の音頭で乾杯をし、それぞれグラスに口をつけるが───
「うわっ!これ、何味?」
がグラスをテーブルに置く。
「さ〜ん。作った人にわかんないのは、誰にも無理ですよ〜。味でブレンドすべきですよね〜」
すっかり一杯目のグラスを空けたがしれっと言い放つ。
「もな〜。さっさと飲みきるなよ。次は?」
空いたグラスを手に取り、将臣が顔の前で軽く振るってみせる。
「バラライカ!・・・まてよ、暑いトコならシンガポール・スリング?」
「って何者?!なんだってそんなに酒・・・・・・」
将臣の片眉が上がる。
「・・・いや〜、注意すべきはアッチ」
の指差す先には、責任を持って自らのブレンドを飲む干すの姿。
「うわぁ!そんなもん飲んだら腹壊すって!知盛!何かまともな飲み物出せ!!!」
将臣が空になったグラスを取り上げる。
これ以上妙なものを作られては酒がもったいない。
「・・・ケチ。これはですね、革新的な飲み物を作ろうという、あくなき探求の心で・・・・・・」
「講釈はいい・・・ほら」
知盛がに手渡したのは、まさしく今話題に出ていたシンガポール・スリング。
ついでとばかりににも同じモノが手渡される。
「いやっほぅ!ラッフルズで飲んだのが美味しかったんですよね〜。その辺で頼むと味が違って・・・・・・美味しい〜!」
ぐひぐびとまたも飲み続ける。
「へ〜〜〜、これが本場の味なんだ。私も買ったカクテルでがっかりした思い出あるなぁ。色がきれいだから買ったんだけど」
も普通に飲み干している。
「・・・知盛。こいつら・・・酒豪だ・・・・・・」
いまだに一杯目のカクテルをちびちびと飲む将臣にとっては、もはや追うつこうという気すら失せている。
「さて・・・酒の種類にもよるだろうが・・・・・・日本酒という気分ではないな・・・・・・」
窓の外に浮かぶ月が、昼間はあんなに透きとおっていた、今は暗い海に映る。
なんとも幻想的でありながら、吹き抜ける風は温めで南国の気配。
「普通にビールにすっかな」
「私も〜〜!実はビール好き」
が右手を上げて主張する。グラスは既に空だ。
「はい、はいっと。豪華な接待させていただきますって」
将臣が冷蔵庫から缶ビールを取り、にも手渡す。
段々と好き放題に飲み始めた、まだ深夜には遠い時間。一番に酔いつぶれたのは───
「あ〜あ。さん、撃沈〜〜〜。ここ、置いてきます。オヤスミナサイ」
冷たくもを置き去りに部屋へ帰ってしまった。
将臣が空いている部屋のベッドへ運ぶ。
「な〜んか散乱してるけど。明日は帰るしいいよな。んじゃ・・・お先に風呂、使わせて・・・・・・」
知盛の腕が将臣の腰へ回り、背中から抱え込む姿勢になる。
「先も後もないだろう?一緒でいい。時間の無駄だ」
将臣の項へキスをことつ落とすと、そのままバスルームへ連れ込む。
「ま、待て!今日はが隣で寝てるんだ・・・・・・」
「起きない。あれは寝てるんじゃない。落ちた・・・だ」
素早く将臣の上着を脱がせると、知盛は自分の上着は脱ぎ捨てた。
「・・・あまり・・・飲まなかったようだしな?」
「俺は・・・運動しすぎで飲む気がしなかったっつーか・・・・・・」
将臣の肩から胸へ、さらに下へと手を這わせる知盛。
「まあ・・・風呂など入らずにというのも一興だが・・・少し酔いが回るのも心地よいだろう・・・・・・」
将臣の髪を洗ってやりながらの入浴タイム。
朝から泳いで疲れていたのか、将臣は知盛のなすがままだ。
半ば意識も飛んでいるらしい将臣を騙す事など、造作もないことだった。
「将臣・・・・・・寝るなよ」
「・・・てねぇ・・・・・・だりぃ・・・・・・」
幾度かの睦み合いの後、将臣が額に腕をあてて僅かな光りすら遮ろうとする。
眠いからに違いない行動なのだが、本人は否定をしている。
「クッ・・・だったら・・・続きをしようぜ?」
「ん・・・・・・った・・・らな・・・・・・」
ほとんど聞き取れない将臣の声を無視して、そのままその腰を持ち上げると再び繋がる。
「っ・・・おい・・・まだスルのかよ・・・・・・」
「ああ。今夜が南国最後なんだぜ?波音を聞きながら・・・とは、さながら・・・・・・」
安住の地を求めて彷徨っていた異世界での時間を取り戻したかのようだ。
「知盛が部屋に来た時・・・最初は意味がわからなかったな・・・・・・あれが夜這いというものだと学んだぜ?」
「足音をたてずに・・・相手の口を塞ぐのは基本だ。ほら」
「後ろはもういいから、前に・・・・・・」
姿勢を入れ替えようとしていた時、数度のノックがしドアが開いた。
「・・・あ。部屋違うんだった。お邪魔しましたぁ〜っと」
が目覚めたらしく、知盛たちの部屋という事を忘れてドアを開けたのだ。
そのくせすぐに頭を下げて出て行ってしまった。
おかげで将臣も隣でが寝ていた事実を思い出した。
「・・・知盛。他に人がいる時は嫌だって・・・・・・」
「クッ・・・タイミングとやらがいいな、嬢は。起きるとは思わなかったんだ」
将臣の口を塞ぎ、下からすぐに突き上げる。
将臣から文句を言う隙を奪うと、軽く何度も逝かせて体力をもぎ取る。
「仔猫ちゃんは・・・お休みの時間だ・・・・・・」
知盛にしがみついたままで眠ってしまった将臣に優しく口づけると、静かに繋がりを解く。
「今度は・・・お前が起きるなよ?」
将臣の額へキスすると、バスローブを紐を締めずに着込み、知盛は隣の部屋へと移動した。
再び眠りについていたを揺り起こす影がひとつ。
「んっ・・・眩しいなぁ・・・電気消さなきゃ・・・・・・」
ベッドサイドのランプを消し忘れたかと、目を開けずに手だけでさのスイッチを探す。
まるで場所が違っているらしく、いつまで経っても電気は消えない。
その時、何かが唇に触れる感触───
「はあ?なんだっ!」
飛び起きたに対し、知盛はの口をその大きな手のひらで塞ぐ。
「クッ・・・起き抜けに騒々しいな?頼むから大声はだすなよ?」
知盛の言葉に数度頷いて承諾の意を伝える。
知盛が手を離すと、大きく空気を吸い込んでから吐き出した。
「・・・何したの、今」
「さて・・・口封じ・・・とやらだな?起きられそうか?」
とぼけた物言いではあるが、に手を差し伸べる辺り真剣なのだろう。
「うん。喉が渇いて冷蔵庫漁って水を飲んだから・・・眠いけど・・・・・・」
「お前たちの部屋まで送る。将臣が・・・気にするだろう?夢と・・・思わせられれば、それが一番いい」
「あ、そっか。でも・・・鍵をどこへ置いたか記憶になくて・・・・・・」
鍵がなければ部屋へは入れない。
昨日はもかなり飲んでいる。電話で起きてくれるかはあやしい。
「クッ・・・困ったな・・・・・・二時・・・か・・・・・・」
フロントに電話をするのもありだが、この部屋に泊まっているのは知盛とになっている。
隣の部屋の鍵を取りに行くのはおかしいのだ。
「に賭けるしかないか・・・・・・」
携帯を取りに行くと、根気よくコールし続ける。コール途中で留守電に切り替わってしまうのがイタイが仕方ない。
そんな事を繰り返していた時、ようやくの声が聞えた。
「・・・はい。は寝ています。南の島で美味しく楽しく生きてます。おやすみなさ・・・・・・」
「こら。切るな。起きるんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰の声だっけ?」
ゆうに三十秒は間をおいてからの脳の回線は繋がったらしい。
「兄の声をお忘れか?」
ふざけて言ったものの、これで通じるかは知盛にも判断しかねる。
「一分・・・じゃなくて三分したらドアの前に行くので、さん下さい。でわ!」
またもに電話を切られる知盛。
ソファーに座っていたが、知盛の肩に寄りかかるは寝かかっていた。
「やれ、やれ。こちらがまたお休みになられてしまう前に・・・・・・」
先ほどと同じ手口でを目覚めさせる。案外唇は敏感らしく、程度によってはキスは有効な手段だったりするのだ。
「・・・食われたーーーっ!食う相手間違ってるよ、知盛さん」
「いいから、立て。が起きたから部屋へ帰れるぞ」
を支えながらドアへ向かい、静かに外の様子を窺う。
しばらくすると隣のドアが開いた音し、気配を感じる。
「・・・・・・知盛さん。チャイム鳴らせないから。開けてよぅ」
こそこそとドアの隙間から中へ話しかける。
知盛が静かに扉を開けた。
「こんばんは。さん、帰りますよ?」
「うん。あのね、うっかりしちゃったの。悪い事しちゃったけど、得した〜っていうかぁ・・・・・・」
「話はお隣で聞くからね?はい、帰りましょうね〜」
を抱えて素早く隣の部屋へと戻るのを、二人が部屋の中へ入るまで見送った後に部屋へ入る知盛。
将臣の隣に座ると、その前髪をかきあげて寝顔を見つめる。
「のんきな顔して・・・・・・あいつ等に世話かけちまったな・・・・・・」
将臣が嫌がる理由はわからなくもない。
異世界でもあまり歓迎されるカップルではないため、若衆道などという言葉があるくらいだ。
この世界ではそう忌み嫌われたものではないが、堂々とするにはまだまだ抵抗がある時代。
将臣のためならば、素知らぬふりで通すことなど簡単なのだ。
「嫁でももらうか・・・・・・」
単純に知盛に妻がいれば、将臣は疑われない。それもひとつの手ではある。ただ、将臣がそれを許すかどうかは別問題。
「もうしばらくは・・・このままで・・・・・・」
将臣の隣に潜り込む。
南の島の夜は、朝へと交替をする寸前になっていた。
誰のテンションが高いといってのハイな様子は、いっそ無理矢理とも思える。
「おっはよ〜、さんっ。ちょっと泳いでくるぅ〜」
「ん・・・いってらっしゃい・・・・・・」
一瞬手を上げてふりかけたものの、再び眠りについたのは。
もうひとつの部屋でも似たようなものだ。
違いは知盛の場合、狸寝入りでまどろんでいるだけ。
最終日の朝、なんとももったいないようでいて贅沢な時間を過ごしていた。
「・・・どうして誰もいないんだろう・・・・・・」
プールはのほぼ貸切状態。一コースのプールの端の方で、老夫婦が水中を歩いているだけだ。
答えは簡単。家族連れは子供の世話で無理。カップルは朝からする事は別の事。
ナンパくんたちは知盛に撃退されて表に出られる顔ではない。
「ま、いっか!荷物も後は送るだけだしぃ」
帰りは手ぶらで帰りたいとしては、土産から自分の荷物まで、昨日荷造り済みだ。
「犬かきでもしよ〜っと。今朝は何食べようかな〜〜〜」
早くも朝食に思いを馳せていた。
「・・・・・・だりぃ・・・何だって・・・・・・知盛っ!邪魔」
腰にかかる知盛の腕を払いのけて起き上がる将臣。
案外腕一本でも重いのだ。
「腹減ったな〜〜〜・・・つか、この始末は誰がするんだ?」
散々飲み明かした酒の瓶や缶が散乱するリビングにあたる部屋。
「ここはホテルだ。勝手にしてくれるだろうさ・・・・・・風呂、入るんだろう?洗ってやるよ」
いつの間にか背後を知盛に取られ、シャワーの次はジャグジーと体を解す。
「とは起きられるのかよ。あんなに飲んで・・・・・・あ・・・・・・」
将臣が駆け出して、が寝ていた部屋へ飛び込む。
使った形跡はあるが、は寝ていない。
バスタオルを手に持った知盛が、それで将臣の体を包んだ。
「何を慌てている・・・・・・そろそろメシに行くか?」
「いっ・・・いや・・・ここにが・・・・・・」
早々と潰れたをここへ寝かせた記憶がある。
「寝ていたが、帰っただろう?自分の足で」
いつ帰ったかという時間が抜けているが、が帰ったのは事実だ。
「・・・そうだったか?・・・俺、記憶があやしいほど飲んでいないよなぁ・・・・・・」
自信がないのは、飲んでいたから。アルコールとはとかく不思議な作用をもたらす。
「クッ・・・早くしないと、がメシを食わせろと騒ぎ出すだろう?」
「そうだった!あいつ、ここの朝飯全品制覇とかバカなこと昨日の朝言っててさ〜〜〜、着替えるぞ!」
勘違いだと納得したらしい将臣が着替えだす。
知盛はその背に残した痕を確認してから着替え始めた。
知盛と将臣が迎えに行くと、そこにはしかいなかった。
「・・・もうひとりどこ行ったんだよ・・・・・・」
何度もチャイムを鳴らしてようやくドアが開いたかと思えば、人員が一名足りない。
「・・・なんか言ってた・・・かなぁ?ごめんねぇ・・・飲みすぎて昨日から記憶が無いんだよ・・・・・・」
の様子を見て、知盛が一瞬だけ楽しそうに眉を上げる。
(こちらは覚えていらっしゃらいないとなれば・・・話は簡単だな。クッ・・・閨へ来られたなど・・・・・・)
まさに知盛と将臣が睦み合っている現場に飛び込んできた。
知盛に口づけられて目覚めたことまで覚えていないらしい。
「がしそうな事といえば・・・・・・プールか海?!あいつ、ひとりで・・・・・・」
将臣が探しに行こうとした瞬間、廊下をぺたぺたと歩いてくる人物がひとり。
「あれれ?どうしたの、将臣くん。そんなにお腹空いた?私もさ〜、限界なんだよね。まってて、これ置いてくる」
プール支度が入っているバッグを軽く持ち上げて見せると、将臣の背を押しながら部屋へ入る。
「あらら?知盛さんもお腹空いたの?ごめんね〜、待たせちゃったみたいですね。えっと・・・さん?」
起きぬけのままでソファーに座る。半分舟漕ぎ状態だ。
「・・・・・・知盛さん。どうしてさんを起こして支度させないの〜?すぐに朝ご飯行けないじゃない!」
腹が減ると機嫌が悪くなるタイプらしく、が腰に手を当て説教を始める。
「・・・クッ、将臣。を連れて先に行って食ってろ。コレ・・・起こして連れて行く」
「わかった。、すぐに食えるから、そう朝から怒るなよ〜。行くぞ」
の顔が満面の笑みに変わる。
「うん!今日は・・・オムレツ作ってもらうやつしたかったの〜。早く、早く!」
冷たい事にを見捨てて、将臣の手を引いて食事に行ってしまった。
「あちらのお嬢さんも無事だったようだし・・・こちらのお嬢さんも無事・・・だな」
着替えさせようと服を脱がしにかかると、の目が開く。
「・・・あのぅ・・・自分でできるよ?」
「クッ・・・ついでに食っておこうかと思ったんだが?」
知盛がの着ている服から手を離した。
「ツマミ食いっていうか・・・開けて食べないのは湿気るからしないでね〜。すぐ着替えてくるし」
重い腰を上げてが着替えに寝室へと戻って行く。
「・・・・・・クッ、クッ、クッ・・・こちらも手強いな?」
服を脱がされかけたのに、まったくもって危機感がないの態度が面白い。
知盛はソファーで待つことにした。
「おそぉーい!今日は午後に帰っちゃうんですよ?ガッツリ遊ばないともったいない!」
何枚目のプレートかは不明だが、の皿はキレイに平らげられており、再び料理を取りに立ち上がるところだった。
「ごっ、ごめん。そのぅ・・・昨夜はさぁ、自分でスペシャルドリンクを作って二杯飲んだのまでは覚えてるだけど・・・・・・」
二日酔いは時々あったが、記憶が無いというのはにも初めての出来事だ。
「ええっ?!覚えてないんですか?だから色で混ぜるのは良くないって言ったじゃないですかぁ〜。濁ってましたもんねぇ」
段々と濁って変色した液体をたんまり飲んだのだ。酔いが抜けないのは当然なのだが───
「頭は打っていなかったようだがな」
知盛がコーヒーとサラダを手に戻ってきた。
「自分の分だけ取ってくるなよ。仕方ねぇ・・・は何がいいんだ?」
将臣が立ち上がりながらの肩を軽く叩く。
「・・・液体以外無理」
声を絞り出すように希望を述べると、が突っ伏した。
「あっそ。じゃ冷たいドリンクいくつか持ってくるな〜」
「私も行くっ!」
「・・・・・・胃袋が破けるっての・・・・・・」
「私の胃袋だもん。まだまだ大丈夫〜〜〜。あのさ、あっちの・・・・・・」
昨日に引き続き、と将臣がバイキングの方へ吸い寄せられるように向かっていく。
知盛がの頭を静かに撫でた。
「ここまで付き合いがいいのもな・・・・・・どうなんだ、」
「うん。だって・・・お友達としちゃ楽しいよ、知盛さんと将臣くんは。知盛さんは付き合ったら最悪だろうなぁ」
「最悪・・・か。・・・・・・試してもいないだろうに」
テーブルへの頭を押し付ける。
「んぐぐぅ・・・きっとちゃんも思ってるよ?二人が仲良しな空気が気持ちイイって。だから・・・今のままでいいんじゃない?」
知盛が漠然と抱いていた不安を言い当てられてしまった。
「・・・年の功・・・・・・」
「ひと言おおいっちゅーの!」
知盛の顎に見事なアッパーが入った瞬間に二人が戻ってきた。
「うわ・・・知盛さんのお美しい顔が破壊されたらどうしよ。お客さん減っちゃって・・・イイかもっ!毎日貸切だねぇ?」
が隣の将臣を見上げる。
「・・・俺のバイト代がなくなるから、それは困る。夏休み中、休んでなかったから少しはイイけどな。、酒癖わりぃ・・・・・・」
将臣がの頭を拳でテーブルへ押し付ける。
「イタッ・・・イテテテテテッ!こっ、こっちのエロ星人が悪いんだよ。まだまだ足りないって言うし。見せろっていったら拒否するし」
「海に沈んでヨシッ!」
止めとばかりに将臣にウメボシをくらう。
「ぎゃふーーーっ!ごめんなさいっ。二日酔いの頭は大切にしてぇぇぇぇ!!!」
魂まで抜け出てしまったかのような。もう起き上がれまいといった力の抜けっぷりだ。
続いて知盛が将臣にヘッドロックをかまされた。
「このエロ星人はぁ・・・毎晩、毎晩、毎晩!いいかげんにしろってんだ!!!」
顎は赤くなってはいるものの腫れるほどではなく、ほぼダメージナシの知盛。
「ふぅ〜ん。毎晩だったのか。そりゃデキちゃう心配ないし。頑張るねぇ、知盛さんてば」
涼しい顔でひとりだけ優雅な朝食といった風情の。大口をあけて、本日二つ目のオムレツを頬張っている。
「お褒めに預かり・・・・・・」
「褒められてねぇっての!反省しろ、反省!」
朝から将臣に小言を頂戴しながら、スキンシップと考えれば楽しいだけの知盛。
少しだけ周囲とは浮いているテーブル。南の島、最後の朝食は賑やかだった。
最終日、観光をしてから飛行機へ乗り込む。
夜に羽田に着く便を選んだのは、その夜景を楽しむためである。
四人の旅行はかなり慌しく決まり、そして、楽しい時間はすぐに終わりを迎える。
次回、このメンバーでの旅はあるのか?
(Printing day:2006.09.18)
Copyright c 2005-2006 Sui Tsukuyomi. All rights reserved.
もなか師匠の人物像について誤解が生じそうです。すんません(汗)
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