[ ハッピーバレンタイン? ]




「こんにちは〜!カウンター席、と〜りっ!!!」
 カウンター席に座り、カウンターの内側でコーヒーを入れている知盛と話している将臣に向けて何かを投げつけた
「っ!・・・・危ねぇしって、チョコ?」
 将臣の手におさまっているのは、いわゆるチロルチョコ。
「そ〜。だって、明日はバレンタインじゃない。世界のチョコレート大集合でウキウキなシーズンだよね〜」
 しっかりと将臣の手からチロルチョコを奪い返し、その隣に腰かける。
「・・・なんか間違ってる。しかも、チロルチョコは世界のチョコに数えるのか?駄菓子だろ〜、ソレ」
 呆れた視線での手にあるチョコを指差す。

「あっ!バカにしたな〜?!そういう悪い子には、チョコレートあげません!」
 さっさと包みを開けて、自分の口の中へ放り込んだ。

「・・・いらねぇし。つか、注文は?」
「もう知盛さんが淹れてくれてる〜。それ、新しいの?」
 口を動かしながら、知盛の手元を眺めているとコーヒーが差し出された。

「クッ・・・ブレンドの比率を変えてみただけだ。飲んでみろ」
「へ〜い。いただきます」
 将臣にもコーヒーが出されたが、それを待つこと無くは先に一口飲む。
「・・・しまった事に、チョコとブレンドされてしまいました」
 軽く頭を下げ、知盛に味については尋ねぬようにとアピールする。
「出すだけ無駄だったってヤツ?」
 そういう将臣も、そう違いがわかる方ではない。
 飲んだものの首を傾げていた。

「役立たずが二匹・・・か」
 知盛も自分の分を口に含むが、それでは客観性がない。
「ちょっと!役立たずって・・・まあ・・・感想がない時点でお役には立てておりませんがぁ」
 言い返すにも、これといって違いがわからないのは事実だ。
 珍しく言葉に勢いがない
「面倒だな・・・将臣。店を閉めろ。ついでにアイツを呼び出せ」
「・・・アイツって?」
 立ち上がりながら誰の事かと将臣が振り返る。
ちゃんにきまってるじゃない。最強戦士だよ、彼女。将臣君が食べたいチョコ持ってきてくれるかもよ?」
 バレンタイン当日にカフェは営業したことがない。
 知盛の性格からして納得である。
「チョコ〜?別に、そう食いたいモンでもないし。知盛も甘いものは得意じゃないぜ〜?」
「そうなの〜?せっかく買ってきたのにぃ・・・お世話になったお礼に」
 が紙袋をカウンターに置いた。

「・・・マジ?」
 紙袋の中身を覗き込む将臣に対し、知盛は言葉もない。

「マジ。だってさ、色々とお世話になってるし。・・・どうしてお店閉めたの?」
 振り返って時計を見れば、まだ十九時である。
「ああ。今日はなぁ・・・毎年明日は店を閉めてるからさ。多少変な女たちが来ることもあるし」
 将臣のウインクの意味がなんとなくわかり、が軽く手を打ち鳴らした。
「そっか。じゃあ私って天才。チョコレートじゃないんだ〜、それ。ホントのメインはこっち」
 少し重めの音がカウンターに響く。
 どうみてもワインだ。
「クッ・・・よくご存知で」
 知盛がワインの瓶を手に取り、ラベルを眺める。
「でしょ?その紙袋は濃厚チーズケーキ。チーズもいいけど、一応はスイーツ系にしないとな〜って」
 今度は将臣が紙袋の中の箱を開けだした。
「うわ。チョコレートケーキかと思った・・・これは旨そ〜」
 ずしりと手に重みがある。
 将臣が知盛に渡すと、知盛の手が止まる。
「・・・将臣、電話。仲間はずれにすると五月蝿い奴だろう」
「んお?ああ。そうみたいだ」
 先ほど携帯をかけたのだが、出なかったのだ。
 着信に気づいてかけ直してきたの電話にでる将臣。
「よ!あのさ、本日は知盛が夕飯に招待したいって。も来てるぜ?来いよ」
 将臣の言い方が面白くて、が笑う。

「来るもんだと思ってる言い方だよね〜。ちゃんにだって予定があるだろうにさ?」
 片肘をつきながらカウンターの中にいる人物へ視線を向ければ、首を横に振られた。
「ない。今朝・・・何時まで営業してるかと言われたしな」
「な〜んだ。来るってわかりきってるじゃん、それって。呼び出すまでもないよ」
 今度は将臣の方を向くと、電話は終わっていた。

「何?」
「何時に来るって?ちゃんとコレ、だぶったら嫌だなぁ」
 も甘いものを避けた選択をしたのだ。
 も同じことを考えはしないだろうか?───

「・・・ぶわははははは!は気が利かねぇから問題ナシ。アイツは自分の食べたいモノしか選ばない女だからな〜」
「何気にヒドイ評価だね、それは」
 の突進ぶりを思い出し、つい笑ってしまう。
「お二人さんのご意見、伝えさせていただくぜ?」
 知盛が口の端をあげながら冷蔵庫へ向かうと、二人はしばしその場で硬直していた。





「ひどぉ〜い!今日は九時くらいまで営業してるって言ってたじゃないですか〜!閉まってる、閉まってる、閉まってる〜!」
 勢いをつけて店のドアを開けるなり、声高らかに叫ぶ
 まだ時計は十九時半なのに、ドアにはクローズの札が下がっていたのだ。
ちゃ〜ん、待ってたよ?私もちょっと前に来たとこ」
 が手招きすると、肩で息をしながらの隣までがやって来た。

「こんばん・・・は・・・・・・。ぜはぁ〜〜〜っ。・・・・・・美味しい匂いがしてますね〜?その前に」
 がカウンターに袋を置く。
「いつもお世話になっているので、バレンタインという行事に便乗しようかと思います。ええ、お返しは三倍程度でいいんですが」
「どこの高利貸しだよ、それは」
 呆れた顔をしながらも、将臣がカウンターの中から紙袋を受け取った。

「・・・これ、何?」
「チョコ。うっそ〜!・・・メインはスパークリングワイン!冬は部屋の中が暑いからね〜。二人で楽しんで?それと・・・・・・」
 食べ物ではない贈り物もあるのだ。
 は将臣を手招きする。
「こっちは食べ物じゃなくて匂いがあるものだから、向こうに置くね。忘れないでね?知盛さんにだけど、将臣くんになんだよ」
「ややこしい言い方すんな。二人にでいいだろうが」
 将臣が手を扇ぐようにしながらをからかう。
「いや、いや、いや。二人ではちょっとニュアンスが伝わらないんだな〜、これが。ま、いいや。チョコ食べよ〜っと」
 さらに何やら取り出すと、バリバリと音を立てて包装紙を開けはじめる。

「あいかわらずワイルド系だね〜、ちゃんは」
「だって〜!この季節だとシャンパンチョコとか珍しいのたくさん買えるじゃないですか。まずはビターから食べましょう!」
 真っ先に一粒頬張る
 続いても一粒食べる。
「ああ。これあんまり甘くなくていいね。将臣君!食べてみなよ」
 が将臣に食べさせる。
「・・・ああ。なんだ、これ。苦味があるっつうか・・・知盛も食ってみる〜?」
 の前にコーヒーを置くと、チョコレートを一粒摘まんで料理中の知盛の口元へ差し出す。
 知盛の口が開いた。

「食べたよ・・・・・・」
「食べたね〜。将臣君が食べさせれば食べるんだ」
 なんとも観察し甲斐がある光景だ。
 は手を取り合って喜んでいる。

「妙な視線向けるなよ・・・そっちは?」
「え〜〜〜!これはトリュフだもん。めっちゃ甘いもん。さんと私の分しかないもん」
 もうひとつの箱は、しっかりとガードされている。
「ケチだな〜。食わせろって!」
 将臣の手が伸び、小さな箱が奪われた。
「や〜〜〜ん!せっかく並んで買ったのにぃ。デパートまで行ったんだよ!限定なのにぃーーーー!!!」
 六粒ばかりしか入っていない小さな箱。
「高いのか?」
「うん。ドンペリトリュフだもん。並んだんだもん。頑張ったんだよぅ」
 必死に手を伸ばして将臣から取り返そうとしている

「知盛〜!ドンペリだってさ。食う?」
 知盛が人差し指を動かして将臣を呼びつける。
 箱を手にしたまま将臣が知盛に近づくと、知盛はチョコレートを一粒摘まんで食べた。が───


「うわ・・・・・・」
「やった・・・・・・」
 将臣の後頭部へ手をやり、見事に口づけてそれを将臣にも食べさせたのだ。


「二つもとったらお嬢さんが泣くだろう?これくらいで返してやれ」
「・・・・・・つか、ひとつを包丁で切れば済んだだろうが!」
 頬を引きつらせている将臣から小箱を取り上げ、カウンターから手を伸ばしてきたへ返す知盛。

「お詫びには・・・十分だろう?」
「いや〜、目の保養・・・じゃなかった。・・・知盛さん!ちょっと、ちょっと」
 席の方に置いてあるプレゼントについて、こっそり知盛の耳元で説明する
 隣に座るにも聞える。
 ただ一人、ガスコンロの前で料理を見ている将臣には聞えない。
 珍しく知盛が目を見開いたかと思うと、惚れ惚れするような笑顔をし、
「そりゃどうも。・・・有意義に使わせていただく」
 すぐに将臣と交替して料理を続けた。


「可哀想な将臣君。哀れ、チョコレート餌食の巻」
「変なタイトルつけないで下さいよぅ。買うの結構恥ずかしかったんですからね〜?」
 が買ってきたもの。夜の必需品シリーズである。
 この季節限定でよくあるパターンだが、チョコレート味のお助けグッズ。
さんだって、二人の夜のためにでしょ〜?ワイン。将臣君を酔っ払わせよう作戦」
「まあね〜。かなり奮発したんだよ、あれ。普段飲まないヤツだと、勢いで飲むかな〜って」
 の贈り物も二人のためのようでいて、知盛にとても都合がいいものばかり。
 お腹が空いたと文句を言うのは将臣の方だろうと、腹持ちのいいスイーツ付きという気の配りよう。

「考える事は同じだね!」
「ですねっ!」
 スポンサーに一番嬉しい贈り物をするのが今後のためにも王道だ。
 今宵の将臣は、酔っ払った上に自身がチョコレートになるとは思ってもいないだろう。

「しっかし・・・チョコレート味ねぇ・・・・・・」
「香りがそうなだけで、味はそんなでもなかったし大丈夫ですよ」
 がケロリとした表情で答えるのがおかしくて笑い出す
「試したんだ」
「一応店頭でサンプルを。私が・・・食べると思われたんだろうなぁ・・・いいですケド」
 軽く舌を出して肩をすくめる。

「じゃあさ、早いとこ夕飯にありついたら飲みにいかない?ビールの気分なんだよね〜」
「いいですね〜!ちょっと遠いですけど、いいお店知ってますよ。駅二つ向こうなんですケド・・・・・・」
 の表情を窺う。
「のった!さっさと食べて、今後の二人を想像して楽しもう!シャッターチャンス、勿体無かったな〜」
 が携帯を用意する間も無く終わってしまった知盛と将臣のキス。
「アレです。次がありますよ、三月に。だって、将臣くんはこっそりチョコ用意してそうだし。お返しイベントがあるでしょ〜?」
「・・・小悪魔だよ、ちゃん」
 そういうの目も輝いている。
「同志じゃないですかっ!」
 がっちり手を握り合うと、本日の参謀二人はもう三月に思いを馳せていた。



 ハッピーバレンタイン?誰にとって?
 答えは各自が探すしかなさそうなバレンタイン前日の夜───







(Printing day:2007.01.28)

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  覗き趣味と思われるかも・・・・・・(汗)ちょっとだけですよ?(笑)お助けグッズはチビシリーズでも定番のアレですv