[ 花の季節、花見は夜桜銀色カフェ ]
「・・・ムカつく。言いたくないけど、年度末から年度はじめの激忙しい時に花見だと〜〜〜?!」
営業部から回ってきたお花見の出欠回覧板。
女性が少ない部署から管理部門等女性が多い内勤グループへお誘いの回覧がやって来る。
丸めて叩きつけたい衝動にかられつつ、ギリギリの理性を掻き集め中の。
隣席の同僚であるが、笑いを堪えながらの右手を指差した。
「・・・折れちゃうよ?ボールペン。しなってる、しなってる」
「あっ!あ〜〜〜、罪のない物にあたってはいかんですね。はい、はい」
拳にしていた右手からボールペン救出のため、机の上へ放り出した。
「毎年の事じゃない。出席にまる、当日遅刻」
「それがムカつくんだよね。最初から欠席にまるつけると、営業部の新人君が半泣きで来させられて可哀想だし」
何の事は無い。最初から欠席にしたい。
遅刻は約束を半分破ったみたいで性格的に嫌。
けれど、欠席にシルシをしようものなら、新人がかわるがわる説得にたちの席まで来るのだ。
先輩連中に命令されての行動のため、任務失敗は再び特務に変わるだけ。
説得が成功するまで続けさせられる。
交渉の練習に社内の人間は丁度いいと気づくのは、命令する立場になる頃。
『先輩方が出席しないと、若い女の子たちも出席してくれないんです。お願いします!!!』
最初はこの方向から攻めてくるのも定番だ。
「まあね。お局のお役目といえば、お役目だからね。可愛いウサちゃんたちを酔っぱらいから守るのも」
どうにも、こうにも、新人の洗礼とばかりに酌女がわりにしたがる上役たち。
新人や若手の男性たちは、場所取りと準備に始まり、当日の盛り上げ役までと、仕事よりもキツイ。
女は年齢を重ねるとあしらい方を覚える。
そうして若い子たちが出来るだけ言いたくないであろうセリフを言わせないよう気配りをする。
後はひたすら空腹を満たせばいいので、慣れればなんてことのない行事。だが面倒。
「守るってほどじゃないけど、自分の時はどうだったかなぁ?覚えてないな〜〜〜」
「はいきなりがぶ飲みして部長たちに可愛がられてたよ。酌させてた」
もいける口だが、同期のの飛びっぷりには驚いた。
逆に、裏表のない性格と豪快さに感心したものだ。
新人研修の時はあまり話さなかったが、配属が同じ同期と親密になれたのは、その花見のおかげだと思っている。
「・・・させましたか。お酌を」
「うん。堂々と言い切ったね。人に酌する暇があれば飲みたい方なんですって」
記憶の糸を手繰って、手繰って、手繰り寄せると、ようやく片鱗を思い出す。
「ははっ。確かにお花見でお酌して回った記憶、薄い。お互いに酌しあって飲んでたりとかだった」
おやじ連中の輪に混じって腰を落ち着け、最初から日本酒を飲んでいた。
寒くてビールは邪道だとまで言ったかもしれない。
「ど〜するの?欠席にしたら、アレも来るんじゃない?」
「アレって・・・中田くんですか。アレも面倒だな・・・・・・」
何のかんのと無礼講になれないのが男性社員たち。
酒の席こそ神経を使うらしい。
との同期である中田は、営業部の課長補佐にまでなっている。
中間管理職の王道を行く彼は、二人の欠席を見つけようものなら即座に内線をかけてくるだろう。
「きぃ〜〜〜っ!カワイコちゃん大勢の総務部だけで十分じゃん!受付の綺麗どころもわんさかで」
「お笑い要員もいるんだろうねぇ」
あまりに綺麗過ぎると気が引けるのだという。
誰も彼もがしどろもどろで、ピクニックシートに座っていただくだけで恐縮らしい。
そんな綺麗どころの彼女たちがお酌をするのは、とがいるグループのみ。
酔っぱらい男性陣に警戒しているのが、ありありとわかる。
裏でとが綺麗どころを侍らせていると言われているのを、当の二人だけが知らない。
酒の席で頼りにならない男性陣より、確実に頼りになると思われているのもわかっていない。
単純に可愛い女の子好きなだけと言っているが、一歩間違うとおやじたちと変わらない発言の割に、
ナイト役も務めてしまうところの差は大きい。
そこが女性陣からのモテポイントだが、男性陣には実践できない縦社会の掟ポイントでもあった。
「お花畑のような彼女たちで満足しないなんて、贅沢な奴らだな。私なんて、ウハハ〜ンだよ」
「それ、違うから・・・・・・」
もう、何につっこめばいいものやら、にもわからない。
こうなってしまったには余分な事を言わないに限る。
それは、長い付き合いから得た教訓。
「いい。欠席にまるする。・・・すべて私の入力に追い付かないパソコンが悪い!」
キーが壊れるかと思うほど、しゃべりながらでも凄まじい速度で書類を作成している。
「・・・そ。私もそうしとこ〜っと」
一度くらい欠席も許されるだろうと、も欠席に丸をつけ、次へと回した。
「何で欠席?!困るんだよ、そういうの。部長たち、楽しみにしてるのに」
「・・・まず、名乗ろうよ。マナー違反でしょうが」
電話のディスプレイを確認せずに受話器を取れば、まんまと噂をした中田からだ。
「二人とも欠席なんて、有り得ないだろう?」
「暇じゃないんだよ、この時期は。今年はカレンダー運も微妙だし。珍しい〜、新人君寄こすより早く
電話して来るなんて」
返事を待たずに受話器をに預けてしまう。
「・・・お電話代わりました・・・なんだ」
にとっても“なんだ”程度の扱いらしい。
この隙にと完成した資料一式をプリントアウトし、内容のチェックを始めた。
昼、社員食堂でランチを食べると。
本日はコンビニ調達のに対し、は手作りお弁当。
毎度頭が下がるが、到底出来はしない。
出来ないなら始めからしようと思わなければいいという、楽に生きるのが信条な性格の。
「今日は寄らなかったの?」
「うん。早朝からプリンター貸し切りしたかったから。カラーだと時間がかかるしね〜」
主語がなくても通じてしまう。
知盛経営のカフェに行かなかったからコンビニ。
四人掛けのテーブル席を二人で独占していた場所に、中田が割り込んできた。
「お邪魔さん」
「ほんとに邪魔だ」
あまりに早い切り返しに、中田が項垂れた。
「あのね、少しは労わりとか思いやりとか・・・・・・」
「してくれたら返すけど。してない事を相手に望んじゃダメだな〜。手ぶらもいただけない」
中田の前には本日のAランチのトレーのみ。
女性陣の隣に座り頼みごとをしようというのなら、手土産は必要だ。
「寒椿さん、なんとか言ってやってよ。ほんとに口悪いな〜、は」
「勝手に名前で呼ぶな〜。許可してない」
向かいに並んで座る二人の勢いに押され、つい傍観してしまった。
ちょっとの隙間もない会話の応酬に割りこめる人物がいるなら見て見たい。
仕方がないので、中田が話しやすいように軌道修正をしてやることにする。
「中田君。お花見の件なんでしょ?」
「そう!そうなんだよ。寒椿さんとツクヨミ・・・言い難いな。月読さんが欠席にシルシをつけてたから。
後から回覧が回った総務部の返事が来なくてさ。・・・様子見されてるっていうか」
とが欠席なら不参加にしたいが、用事もないのに欠席もし難い。
苦肉の策で欠席のための理由に何か予定を入れようとしていると思われる。
「特に部長なんて、と飲むのに自前で日本酒調達してくるとか言ってて・・・・・・」
から攻めるべきか、から攻めるべきか。
まずはに向けて軽くジャブを打ってみるが、完全無視でサラダをシャクシャクと食べている。
「寒椿さんは、何か用事があるのかな?遅れてでも参加するのは難しそう?」
「ううん。単に気分。コレがいると楽しいけど、いないのに寒いところで何時間も座ってる理由ないもん」
あまりにあっさり用事がないと言われると、作戦の立て直し様がない。
つい箸でご飯の山をつついてしまう。
「そんなトークじゃ、商売上がったり〜〜〜」
「・・・お客様よりハードル高いよ、君たちは」
溜め息を吐く中田の正面にBランチのトレー。
顔を上げれば上司がの隣に座っていた。
「確かに。まだ説得出来ないようじゃ、商売上がったり・・・かな?」
さりげなくポッキーの箱がとに配られる。
「わ〜、ありがとうございます!デザートバージョンだ!のは箱赤いね」
「ありがとうございます。お気遣いをいただいて。・・・のは・・・緑はティラミスなんだ」
値段は同じで味が違うものを選んでくる辺りが上級者。
さすがに営業部の部長である渡辺は違う。
「いやね?今の時期、営業は新年度ですっきりさっぱりゼロからスタートだけれど、管理部門は年度末の
仕事もあるからね。大変だとは思うけど、お花見に来て欲しいな。山崎部長に掛け合ってもいいよ?」
これが大人の配慮というもの。
ここまで言われれば、欠席は出来ないが、条件は出したい。
「山崎部長は大丈夫です。回覧を見て、行けるように考えるって言ってくれたくらいです」
「何だ。じゃあ・・・・・・」
気持ちの良い返事が返ってきたに対し既に手ごたえを感じ取った渡辺は、視線をへ移す。
最後の難関はここだけだ。
いや、最初からここだけと踏んで、手土産持参でと一緒の時を狙ってきた。
がいればフォローしてくれるのも計算に織り込んである。
「月読さんも・・・・・・」
「本気だせば、ちょい遅刻くらいで行けますよ。ただし、今年は久保田万寿」
人差し指を立てて、堂々と一本丸ごとを強請る。
昨年は八海山。今年もハイグレードを狙いたい。
「そう言うだろうと思って用意してあるよ。もちろん僕の差し入れで」
「やった!コンビニおでん持参で後から参ります〜〜〜」
ぺこりと渡辺へ向けて頭を下げると、
「そんなの中田君がなんとかするよ。温かいおでんがご要望だそうだ。よろしく」
「は、はい。総務部女性陣のリクエスト聞き込みと、出欠確認も直ぐにしてきます」
中田が素早く席を立ち去った。
「・・・食べるの早い」
とが目を丸くして後ろ姿を見送る。
「営業の基本だよ。妻には叱られるけどね。お先」
後から来た渡辺までも食べ終えていなくなる。
フットワークが軽く、切り札の出し方が上手い。
中田に足りないのは駆け引きで、部長の言葉に即座に反応して動くのは流石である。
「ごちそうさまでした〜!」
手を振って見送ると、軽く手を上げて返された。
「お強請り上手だねぇ?」
「そっかな〜。渡辺部長が好きな豆大福持参で当日参戦しよ〜っと。日本酒とスイーツOKの仲間なの」
何気に個人の好みや趣味まで良く知っているなと感心してしまう。
けれど、は単純でわかりやすい。誰もがの好みや趣味まで知っている。
(じゃ、秘密にしている方が馬鹿らしくなっちゃうか)
「豆大福なんだ」
「うん。しかも、今時ホンモノのお餅お店があるの。中田くんに使い走り頼もうっと」
課長補佐を顎で使う。毎度の事だ。
実際、金曜日に買い物に抜け出していては、花見はアウト。
「私も何か持って行こうかな〜。何がいいと思う?」
「持ち帰り出来るのがいいんじゃないかな。女の子たちウケしそうなのはね〜、フィナンシェだ!
キハチがいいね。早く帰りたい子にささっと。花見で食事は期待出来ないからね。折半しよ」
野外で酒のつまみが中心になる。
手を伸ばしていちいち取るのは食べ難い。
女性陣だけと釘をさして配れば問題は無い。
例年の如く気遣いを見せるに、便乗する形でが参加した。
大騒ぎの花見の週末が終われば月曜日。
今年の桜は少しばかり早く咲きはじめたので、花が半分程度しか残っていない。
ようやく仕事がひと段落のとは、定時退社で食事会。
さらはの誕生日がある4月下旬の恒例行事になっていた。
「予約時間に早いね〜。時間つぶそう!」
「あ。私は久しぶりだ〜」
がご利用の駅からは会社までの通り道を少しそれるだけ。
が利用する地下鉄の駅だと、会社よりも遠くなる位置関係が知盛の店の場所。
「こんばん・・・は?」
店に入ると、どこかいつもと雰囲気が違う。
「よっ!早いじゃん。・・・え〜っと、さん・・・だっけ?お久しぶり」
二人連れとなると案内に迷いが生じるが、がいつもの指定席を指差したので、カウンターへ案内した。
「カプチーノがいい。は?」
「何で決まってるかな。私は・・・・・・」
コーヒーのメニューを手に取り、睨めっこをする。
「どれも美味しいから大丈夫だよ。ね?知盛さん」
「お褒めに預かりまして・・・・・・アレでもするか?」
知盛が人差し指をくるりと回す。
「して下さい!もカプチーノ!決まりっ」
「・・・いくらでも、人の分まで決めるなよ・・・・・・。いつも迷惑かけられ中?」
水を置きながら、将臣がを気遣う。
「慣れました。アレの内容が知りたいから、同じ物でOKです」
「了解。知盛、オーダー済みでいいな?」
何も書かずに声がけのみにする。
「ああ」
最初からそのつもりだったらしく、特別動きに変化は無かった。
「で〜〜〜?珍しく早いじゃん。まっすぐご帰宅?」
「ちがうよ。ちゃんのお誕生日会。毎年、期末の仕事が終わる頃にあたるから。今年は誕生日過ぎちゃって
悪いな〜とは思ったんだけど、先週はお花見もあったし。だから、この後二人でお食事会」
「へ〜〜〜。予約してあんの?」
テーブル席を気にしつつ、将臣は探りを入れる。
聞こえるように言っているとも言う。
「してるけど・・・・・・」
とが目を合わせると、将臣が指を鳴らして知盛の気を惹く。
「それキャンセル。もう店閉める時間だし。知盛、いいだろ?」
何がいいのかまったく不明だが、知盛の親指が冷蔵庫を差した。
「よっしゃ!キャンセルしとけ」
さっさとテーブル席の女性陣にラストオーダーの注文を取りに行くと、すぐに戻って冷蔵庫の中を確認する。
「〜、予約した店どこだ?」
「どこって・・・創作和食系?」
「あっそ〜。ならイケルわな。後は俺か・・・って、時間ねぇし。白玉かな」
ぶつぶついいながら今度は冷凍庫を開けている。
「将臣」
「んあ?ああ」
テーブル席にいた女性たちは、追加オーダーすることなくようやくお帰りらしい。
知盛は相手にしたくないらしく、将臣に会計他すべて押し付けだ。
将臣が会計と片づけをしている間に、カプチーノがとの前に並べられた。
「クマだ〜。ゲイジュツだ」
「ウサギになってる・・・・・・」
余程気分が乗らない客がいたのだろう。
知盛がこの手のおふざけをするのは珍しいし、そんな時に来たからこその歓迎のイタズラともとれる。
とはいえ、あからさまに歓迎してくれるような性格ではないので、実際はタバコ片手に冷蔵庫と対峙中。
「嬢のお誕生会、うちでするんだな。アレ、貸出してやるよ」
「アレって・・・アレはデザート要員でしょ?勝手に寛ぐので、ご馳走待ってます!」
知盛と将臣の粋な計らいに任せようと、はすっかり腰を落ち着けている。
は久しぶりに来たというのに名前を覚えていてもらえ、噂の手料理まで食べられる事になり大感激。
そうっとウサギの顔が崩れないようカプチーノを飲む。
「その角度は・・・ヒゲになるよ」
「・・・煩いな〜、こそクマが間延びしちゃって、もったいない」
早くも知盛と将臣を無視して楽しみだしている。
知盛が小さく笑ってから料理に取り掛かったのを、将臣だけが見ていた。
「先に言ってくれれば、もう少しは上手いデザートが作れただろうに」
白玉ぜんざい用の白玉団子作りに精を出す将臣。
ちょうどとの間の正面の位置で、話し相手を務めながらといった状態だ。
「う〜ん。じゃあ、来年は予約する。ケーキに歳の数のロウソクをご用意」
「余計なものつけなくていいんだよ!ケーキはケーキだけだから綺麗で美味しいんだから」
やはり二人だけ放っておいても大丈夫そうだ。
将臣が何となく後ろを振り返ると、その視線に気づいた知盛が肩を竦めて返してきた。
(だよな〜。春は新規の客が多いから面倒なんだけど)
春は新人が会社に入り、カフェにも新顔が増える季節。
知盛と将臣に付きまとうお嬢さん方が増えるシーズン到来である。
久しぶりに面倒な客に居座られていた疲れも吹き飛ぶ、との会話。
「で?花見は無事済んだんだ」
「無事じゃないですよ。この人、豆大福片手に日本酒だもん。女の子たちのビールまで飲んじゃって」
「餡子とポン酒かよ・・・どんな胃袋してんだ?」
確かにの酒は種類と量を選ばない。
それはよくわかっていたつもりだが、酒の肴まで選ばずとは知らなかった。
「これが、案外美味いのだよ。食わず嫌いはいかんです」
「食わず嫌いっていうか・・・食い合わせ?」
酒も飲めるし、和菓子もいける。
それを同時にというのが理解出来ないだけだ。
「ま、の胃袋なんてブラックホールだしな。考えるだけ無駄。テーブルセッティングするから、
それ飲んだら向こう。そろそろ先付け並べる」
「やった!」
最早食べ物しかないは手を叩いて喜んでいる。
こうしての誕生会は、急遽知盛と将臣手作り料理の食事会へと変貌を遂げた。
「うは〜。冷蔵庫をあけてウニが入ってるなんて。贅沢だな〜」
お吸い物は蛤と三つ葉、ご飯はウニ飯と、海鮮贅沢三昧。
「偶然。知盛の知り合いが送ってきたんだよな。取りあえず店の冷蔵庫に押し込んでただけ」
店宛に届いたので、持ち帰るまでと入れておいた。
偶然にも食事の人数が増えたので持ち帰る手間が省けた。
「果物はねぇから、白玉ぜんざい抹茶アイス添えがデザート。ケーキがよければ買って来るか?」
「と、とんでもない!そんな・・・せっかく和食だし、ぜんざいの方が合いますよ」
手を忙しく動かしてが辞退する。
「そ〜だね。来年、将臣くんに焼いてもらうから。まるっと、の好物で!」
「早目に予約して言ってくれ。練習する」
突発が多いの事。
何を強請られるかわかったものではない。
ハロウィンの奇襲にしても、知盛がカレンダーを見なければ負けてしまうところだった。
「そういえば、どうしてクマとウサギ?知盛さんがあんなキャラ知ってたとは思えないんだけど」
「・・・煩いのがいただろう?バッグにぶら下がっていた」
知盛が言うところの“煩いの”の“の”は、入店時に微妙な空気を醸し出していたご婦人方だろう。
「納得。見ただけで出来るとこが何とも・・・・・・」
真剣に紙にペンで描いてもあれほど上手くは描けない。
(何でも出来ちゃう人っているんだよなぁ・・・・・・)
それが知盛だと嫌味なくらい様になる。
「のウサギに耳リボンしてたのは?」
「お誕生日のサービス」
「うわ、気障」
口元に手を当て笑う。
「そう言われると・・・出し難くなるんだが」
閉まっている店のドアを叩く影がある。
珍しく知盛が立ち上がり、店のドアへ向かった。
「な、何?!押し込み強盗?てか、知盛さんじゃ、逆に過剰防衛?」
「あのな・・・過剰防衛についてはその通りなんだけどな・・・そろそろデザートだな」
将臣は知盛が何をしているのか知っているらしく、辺りを片づけると奥へ行ってしまった。
「・・・こんなに悪いんじゃないかな?」
「大丈夫だって。しばらくまめに顔見せに来て、変なお譲ちゃんたち撃退要員になればOKだよ」
知盛は無視してしまえばいいだろうが、将臣は苦労して断るのだろう。
だったら、勝手に勘違いをしてもらうのもアリだ。
「わかった。しばらく朝も帰りも寄ろう」
「うん。春先だけ特に集中するからね」
こそこそと打ち合わせをしていると、テーブルの真ん中に知盛が何かを置いた。
「お誕生日にはケーキだろう?」
さりげなく手はに勧めるように差し出されている。
「あ、ありがとうございます」
まさにケーキボックスのそれをそっと開けると、中から出てきたのはフラワーケーキだった。
「うわ・・・・・・」
言葉を失ったに対し、
「お花がもりもりしてる〜、可愛い〜、黄色とオレンジ〜〜〜、ビタミンジューシー」
が妙な例えの感嘆の声を上げた。
「来年は食えるケーキを用意するからさ!今年はこっちでヨロシク〜」
将臣がの前にデザートを最初に置く。
「あ、ありがと・・・・・・」
「上手いな、女口説く手口が」
人の悪い笑みを浮かべてからかうの頭部に、将臣の手が乗せられる。
「ウルセ。黙ってさっさとかっ喰らえ!こんだけ積めば、でも満足だろうが」
の前に置かれたデザートのアイスは、世間でいうトリプルだ。
これでは添えモノがアイスか白玉かわからない。
「おう!食べるぞ〜」
食べる態勢に入ったを止めるのは、でも無理。
軽快に動くスプーンを眺めていては遅れを取ってしまう。
もスプーンを片手にデザートを食べ始めた。
カフェでは珍しく、玄米茶で締めくくりとなった。
「ごちそうさまでした。しばらく・・・通いづめしますからね」
こっそり知盛に本日予定していた代金を払うと、そのまま返される。
「今週毎日。その時に」
「OKです、隊長!お昼も来ちゃう」
「クッ・・・よろしく頼む」
こちらで無事に商談成立している頃、は将臣手作りクッキーの味見を任されていた。
「ちょっとガリガリすぎ?」
「げげっ。に食わせないでよかったぜ。すっげー細かいんだ、食い物には」
「あ、確かに」
笑い合っている二人の会話は筒抜け。
「そこ二人!聞こえないように言うように!」
がと将臣に向かって声を上げた。
「それじゃ悪口になっちゃうでしょ。明日はと味見にくるので」
「お待ちしてま〜す。次は激ウマって言わせるからな。気をつけて帰れよ」
「また明日!」
将臣に送り出され、少し肌寒い中を並んで歩く。
「ほんとに美味しかった」
「そうなんだよね〜。でも、レストランにしそうにないんだよね〜。絶対儲かるのに」
知盛の性格からして、売り物にするのは面倒が勝るのだろう。
「またそういう事言って。ちょっと通なお店がいいって言ってなかったっけ?それより、こんなお花まで」
「あ、それ。存在は知っていたけど、本物は初めて〜。知盛さんだと、これまた似合うんだ」
モノになってしまうと重いが、花というのは負担にならない。
こういった距離の線引きが実に巧みだと思う。
「明日、午後から抜け出して居座ろうかな〜。GW前の仕事が増える前に、色々書類整理しちゃいたいし」
「あはは。そういって帰ってこないんだから。二人は目立っちゃうよね〜」
「平気、平気。そのためのお目こぼしスイーツ配布したでしょ。受付フリーパス!」
豪快かと思えば強かな一面もある。
「じゃ、そうしよ。少しは恩返ししなきゃ」
「いや〜、いるだけで恩返しどころか、恩を売れるね。賭けてもいい」
常連のおじ様方とも顔見知り。
将臣のためなら誰もがフォローし合うのも暗黙のお約束だ。
「賭けないよ。勝ち負けがわかっているのは賭けっていわないの」
「そう?・・・あ、肝心な事を忘れてた。お誕生日、おめでと〜〜〜」
「改まって言われるの、考えちゃうな」
「いいの、いいの。ちょっとだけ飲んで帰ろう?」
の胃袋はまだいけるらしい。
将臣の言葉を思い出し、くすりと笑ってしまう。
「ブラックホール・・・・・・」
「何か言った?」
「ううん。何でもない。行こ!」
お誕生日にカフェに立ち寄ると、特別サービスが受けられることも。
基本的にはマスターの機嫌に左右されますので、サービスが無くてもあしからず。
愛想のよいバイトくんを騒々しいご婦人方から救出するミッションがもれなくついてきます。
ただし、すべて事前にマスターのお気に入りに登録されている必要があるようです。
(Printing day:2009.04.18)
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勝手にLINK記念。そして、お誕生日おめでとうございます
