[ 薫風の銀色カフェ ]
気づけば連休も終わり、かといって梅雨には早い時期。
気候は寒暖の差はあるものの、日中の風の爽やかさが心地よい。
そんな季節の朝は、空は本当に空色をしており───
「さ・・・さぼりたぁ・・・・・・」
ビルの谷間から空を見上げる。
こう建物が多くては青空の全貌を知ることは難しい。
が勤務しているフロアーならば、さぞかし眺めだけはいいだろうと思いを馳せる。
が、そこは労働に従事する場所だ。
景色がよかろうとも気分は下降するだろう。
「あ〜あ。仕方ない。行きますか。・・・ぎゃっ!!何事?!」
信号が変わると同時に一歩を踏み出そうとすると、後ろから腕を掴まれた。
「ぎゃって何だよ、ぎゃってのは。しかも何事ときたもんだ。いつでも気合いれてるんじゃなかったんでしたっけ〜?」
嫁入りを諦めていない宣言をしたをからかうのは将臣だ。
「・・・いやぁ・・・それはソレ。て、いうか。朝から二人でサボリ?羨ましすぎるっ!」
コンビニのビニール袋を持った手を拳にして二人を交互に見る。
将臣の片割れである知盛は至って涼しい顔だ。
「つか、そんなん持ってたらウチに来るつもりないじゃん」
将臣がのビニール袋を取り上げる。
「お〜い!私のお昼ご飯返せ〜〜〜〜〜」
手をひらつかせて将臣に返せという仕種をして見せるが、将臣は中を覗いて肩を竦めた。
「・・・菓子とカップ麺ねぇ・・・・・・豪華な昼ですな!」
「何よ!いいの。給料日前で厳しいんだってば」
無理矢理ビニール袋を奪い返すと、そのまま背を向けて歩くつもりが歩けなかった。
「あの・・・知盛サンもカップ麺にご興味が?」
またもコンビニのビニール袋を掴まれ、その場を去ることが叶わなかったのだ。
知盛は黙って袋からお気に入りのチョコレート菓子を取り出すと将臣へと手渡す。
続いて残りを袋ごと空高く放り投げた。
「ぎゃーーーーーーーーっ!何するのよっ!」
両手を上げて叫んだ。それこそが油断である。
まんまと知盛に抱えられ、そのまま車へと乗せられてしまった。
「あのぅ・・・私のお昼・・・・・・」
「ああ。昼は海で食う」
「ああ!そうか〜。天気いいもんね〜〜って、そんなワケないしっ!」
知盛運転の車。助手席には当然のように将臣。は後部座席に押し込められている。
後ろから喚くがまったく相手にされない。
「が言ったんだろ〜。サボりたいって。協力してやってんじゃん」
将臣は持ち主の許可なく菓子の箱をさっさと開けて食べ始めている。
「か〜え〜せ〜!まったく。私より先に食べるってありえないし」
箱から一枚摘み取ると、そのまま口へと放り込む。
「・・・んぐっ。飲み物ない」
「ある。ほれ」
将臣にしっかり持ち帰り用になっているカフェ・ラテを手渡される。
車内でも零れる心配がいように蓋つきだ。
「ん。ありがと・・・・って。話が進んでないじゃん!これじゃまるで・・・・・・」
「拉致ったとでも言えばいいのか?」
今まで黙っていた知盛が口を開く。
の言いたかったそのものずばりの言葉を言われてしまい、が黙る番だ。
「・・・あのぅ・・・拉致は犯罪ですよ?」
一応、念の為に聞いてみる。
さすがに誘拐というには連れ去られた人間の年齢に無理がある。
「バカだな〜、は。ちゃんとの母さんから許可もらってるし?会社への連絡もOK〜〜!」
将臣が人差し指と親指で輪を作ってみせる。
「は?・・・どうしてお母さんが・・・って!!!何で実家の電話番号知ってるの?」
「ま、そこは色々だな。気にすんなって。ちなみに俺はボディボードをする予定だ」
すっかり将臣の心は海に飛んでいるらしい。
「いや、いや。将臣くんの予定は聞いてないし・・・知盛さんが海?!似合わな・・・・・・」
「サボってる奴がそういう事を言っていいのか?」
知盛がバックミラー越しに意地の悪い笑みをへ向ける。
「ううっ・・・ものすごく被害者な気分。せっかくお天気イイのにぃ・・・・・・」
「だ〜か〜ら!空を見ながら海目指してんだ。楽しめ!」
将臣が指差した窓の外に広がるのは青い空だ。
「〜〜〜!確信犯たちめ〜〜!楽しんでやるっ!!!」
「そう、そう。そうじゃないとらしくな〜い」
車内は子供が二人と大人がひとりの遠足に変貌を遂げた。
「うみぃ〜〜〜〜!!!」
駆け出すのはのみ。
せっせと将臣は知盛のために場所を確保し、遊ぶための準備も始める。
まだ海の水は冷たい。
ボティースーツを着用し、ボードを抱えてといった状態。
一方の知盛はすっかり昼寝の体制に入りつつあり───
「〜!こい、こい」
「犬じゃないってば」
言い返しながらも、将臣の手にある菓子に惹かれて近づく。
「ほ〜ら。知盛が朝焼いたクッキーだぞ〜。これがあれば大丈夫だ。じゃ!」
「は?ちょっと?これ・・・袋ごと?」
取りあえずは一袋食べていいらしい。
そして、すでに昼寝をしている知盛の隣まで戻ってみる。
「・・・・・・その手は何?」
「俺は寝る。お前は見張り番」
知盛が指差すのは本日の昼ご飯が入っているだろうバスケットと将臣が着替えた残骸。
「・・・うん。なんとなくわかってたよ、今日の役割」
将臣は海で遊びたい。知盛は日がな一日ダラダラしたい。
妥協して知盛が海へ来たとしても、寝てしまうと荷物の見張りがいない。
両者間の問題を解決するにはもうひとりの人間が必要。
それが答えである。
「いいもんね〜。気分がいいから歌ったり、海で足つけちゃったり、おやつ食べちゃったり。
勝手に楽しくすごすも〜〜〜ん!」
宣言通り、ひとりでも相当楽しく過ごしている。
海では将臣が楽しく波と戯れ中。
薄目を開いて二人を確認すると、知盛は本格的に寝る事にした。
「パパ、ごは〜ん!」
知盛の左と右から声がする。
わざわざ両隣に陣取って知盛に昼食を強請る将臣と。
「・・・出すだけだろうが」
「いや、何。俺はこんな格好で」
将臣が濡れた頭をふるふると振り回すと、水飛沫が辺りに飛び散る。
「私はすでにこんなんだし。一番綺麗なの知盛さんなんだよね〜」
は砂浜で足でも取られたのだろう。
砂まみれの格好で飛び跳ねると、服のあちこちから乾いた砂が落ちてくる。
「・・・・・・クッ・・・犬共が。少し待ってろ」
知盛が起き上がる。
将臣との頭には耳、背後にはシッポが見える・・・ような気がした。
音にするならばハグハグ。
ひたすらバケットサンドに齧りつく二人を、コーヒー片手で眺める知盛。
なんともいい食べっぷりで作った方も気持ちがいい。
「う〜ん。そっちの卵たべた〜い」
が指差せば、知盛がカゴから取って手渡してやる。
砂も水も撒き散らされては敵わないからなのだが、それにしても知盛が動くのは珍しい。
「ども。この卵半熟が混ざってるのがウマウマなんだよね〜」
「ん〜?俺は普通に豪華なのが美味いけどな」
将臣が好きなのはサラミやレタスに厚めのチーズと、パンより具が多いサンドイッチだ。
もちろん将臣用に用意がされており、両手で食べるべしというサイズ。
気持ち空腹が満たされた二人が、ようやく知盛が食べていない事を不審がる。
「知盛・・・の分はないのか?」
あまりに食べ過ぎたかと様子を窺うのは将臣。
「知盛さん・・・まさかと思うけど車酔いしてたってオチはないよね?それとも、二日酔い?」
そうモリモリ食べるタイプではないが、この顔ぶれの時はいつも普通に料理を食べている。
いよいよ訝しがる二人の視線に、知盛が口を開いた。
「帰り・・・どっちか運転しろ。酒がないのはダルすぎる」
「「はい?!」」
今更ながら知盛はビールを我慢していたのだと知る。
しかし、どちらが運転をするかという新たな問題が勃発した。
「やだ〜!わたしってばペーパードライバーちゃんだし。あんな車運転したことないし」
「待てコラ!俺は疲れてんだよ。転がって飯食っただけだろうが〜、は」
帰りの運転のみっともないまでの擦り合い。
知盛はといえば───
プシュッ!・・・・・・
一気に缶ビールを半分ほど飲み干していた。
「マジっすかーーーーっ!!!」
二人そろって頬へ手をあて叫び声を上げる。
「残念だったな。どの道どちらかが運転すればいいことだ」
余裕で喉を鳴らしながらビールを煽る知盛。
残る手段といえば───
「私も飲むっ!将臣くんは飲んだら海にはいけないねっ。溺れちゃうしね〜〜〜」
カゴまでにじり寄り、缶ビールを手に取る。
勝敗がここで決してしまった。
「あっ、ズル・・・・・・」
プシュッ!くびり。ぐびぐびぐびぐび・・・・・・
「ぷっはぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!うまっ。いいね、青空の下でビール」
軽く手の甲で口元を拭うの男らしさが笑いを誘う。
「・・・諦めたんだな、嫁入り」
「何でよ」
「いや〜、このメンバーで注目されないわけないしな〜〜〜」
将臣がさり気なく親指で後方を示せば、辺りにはいつの間にか人が群がっている。
「ありえなーい!この際だもん、飲んでやる!て、いうか。追加を買ってくる」
小走りに駆けて行くへ軽く手をふる知盛。
「な〜んかハメラレタ感じ」
将臣がしゃがんで知盛の額をつつく。
「さあな。もうしばらく遊んで来い。こっちは退屈しない犬がいるから問題ない」
「犬扱いかよ〜。まあ・・・犬だな。知盛は猫」
将臣は軽く伸びをしながら立ち上がると、ボードを抱えて再び海へと向かう。
まだまだ空は青く澄んでいる。
「仕事サボって飲むビールは最高だね!クセになりそ〜〜〜」
遠くでの声が聞える、ある晴天に恵まれた日の昼下がり。
本日、カフェは臨時休業でございます。
またのお越しをお待ちしております。
(Printing day:2007.06.05)
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