[ チモリネコ? 第22話 ]





「・・・・・・?」
 目覚めたチモリは、自分の手を動かしてみる。
 続いて隣で眠るチビ臣を確認した。

「・・・・・・消えてない・・・・・・のか?」
 いつも消える時は意識が無い。もっとも、出現する時も直前まで意識がないから、そう大差ない状態ではある。
 出現する時は将臣たちの部屋のはずだ。チビ臣とチモリに用意された部屋にいる事はおかしい。
「・・・どういうことだ?」
 ぺたりと床に足を下ろすと、隣の部屋へ行こうとして止めた。


(・・・・・・邪魔すると面倒だ)
 小さくても知盛である。大きな知盛が何をしているかなどお見通し。
 時計へ視線を移せば、まだ起きるには早すぎる時間。

「・・・・・・まあ・・・悪いことじゃないな」
 今度はチビ臣の隣に潜り込むと、本日は寝坊と洒落込む事にした。







 隣の部屋に気配を感じるも、無視する事にした知盛。
 こちらは将臣を腕に抱いたままで、まだ早い朝を楽しんでいる。
 将臣が目覚める事に期待してではなく、寝顔を眺める時間が楽しいのだ。

「・・・馬鹿口開けて・・・・・・」
 頬をつついてみるが、口を閉じる気配はまったく無い。
 寝相も悪いといえば悪いのだが、知盛が壁になる所為か防波堤となり、それ以上は移動しなくなる。
 ただし、顔の状態までは変えようがない。口はいつも開きっぱなし。
 静かに将臣の髪を撫でた。

(寝癖・・・つくんだよな・・・・・・)
 見た目には将臣も真っ直ぐな髪だ。しかし、知盛は寝癖がつかない、将臣は寝癖がつくという違いがある。
 外に向かってはねていても気にしないらしく、いつも知盛が出来るだけはねない様、寝ている隙に撫で付けている。

(・・・そろそろ起きないと、今朝もメシの支度が四人分だしな)
 将臣だけならばそう文句もないだろうが、チビ臣がいるのだ。
 チビ臣が目覚めるまでに用意が済んでいないと、後々面倒である。


「さてと・・・・・・」
 将臣の頭をさり気なく枕へと移動させると、様子を窺う。

「・・・・・・クッ・・・これで起きないとは・・・な?」
 知盛の腕枕と、普通の枕では感触、高さとも違うハズなのだ。
 安心しきっているのか、知盛が起き上がっても目覚める事はない。

 昨夜も愛用させていただいたカプチーノ風味のローションを手に取ると、残りの量を確かめる。
「将臣は・・・何があってココにいるんだろうな」
 推測でしかないが、知盛がココにいる理由は死線を彷徨っての事だと思われる。
 元々そう生きている事に執着していないからだ。
 だが、将臣はそうは見えない。

「・・・考えるだけ無駄か・・・・・・」
 再び将臣の髪を軽く撫でてから、いよいよ朝食の支度に取り掛かった。







 まだ初秋である。半袖とはいかないまでにも、それなりに心地よい季節だ。
 寝坊するには丁度よい。
 朝食の支度を終えた知盛が時計を見上げる。

「・・・八時か」
 未だ誰も起きてくる気配のない家の中を窺う。

「・・・・・・クッ・・・今日はブランチ決定だな」
 窓を開け放った部屋のソファーへ転がる知盛。
 しばしの休息を楽しむ。
 これからの事を話し合わなくてはならないし、何がきっかけで何も覚えていない状態に戻るかもしれないのだ。


(俺は・・・何をしている人物だったんだろうな・・・・・・)
 家族の記憶があるにはある。
 顔は思い浮かぶのだから。けれど、事細かな事となると思い出せない。
 肝心な何かが抜け落ちている感があるのだ。

(死ぬには・・・早すぎたのか・・・もう・・・事切れているのか・・・・・・)
 死んだから夢の世界に居るのか、意識だけが夢の世界なのかまでは知盛にも判断がつかない。

(将臣に・・・死ぬような理由があったのか?)
 危機感が薄い将臣。
 どこででも平気で寝るし、出された食べ物はすぐに口へ入れてしまう。
 生命力があるといえばあるのだが───

(どこで俺たちの夢が交わる必然性が?)
 ぼんやりと考えていると、将臣が起きだしてきた。





「はよ・・・・・・腰が限界。つまりはさ・・・・・・」
「ああ。だったら今度は後ろにして・・・・・・」
 顔を洗って首にかけていた将臣のタオルが知盛へ投げつけられる。
「黙れ。ウルサイ。もう何も言うな!」
 将臣に指差され、肩を竦めながらソファーからその身を起こす知盛。
「・・・前がいいんだろう?前が。あんなに口づけを強請った・・・・・・」
「てないっ!断じて!」
 知盛が口の端を上げて、真っ赤になっている将臣を挑戦的な視線で見上げていると、チモリが二人の間に立った。


「前でも後ろでも好きな方ですればいいだろ。そろそろ臣が起きるからご飯にしろ」
 

 しっかり仲裁をされてしまい、将臣は頭をかきながら窓の外を見て誤魔化した。



「・・・それでは、遅く起きられた皆様のために温めなおすと致しましょう・・・・・・」
 殊更丁寧な口調で立ち上がる知盛。
 準備は整っているから、そう時間はかからないのだ。
「ママは寝癖直してから臣を起こしてきて。俺はパパの手伝いする」
「・・・はい。そうさせてイタダキマス」
 しっかりチモリに用事を言いつけられてしまった将臣。
 それぞれ台所と洗面所へ分かれて移動した。





「元気に朝は、朝ごはーーーーん!!!」
 まさしく朝からテンションMAXは子供の特権とばかりにフォークを握り締めて朝ご飯をパクつくチビ臣。
 何が可笑しいといって、消えていない事に疑問すらもっていない様子が一番可笑しいのだ。
 知盛の口元もいつになく緩んでおり、将臣は自分の分身であるチビ臣の考えの足りなさに恥ずかしい思いをしていた。
「零すなよ・・・・・・」
 せっせと隣で世話をしながらも、これだけ何にも疑問をもたれないとなると切り出す言葉も見つからない。
 将臣は、合間、合間に溜息を吐きながら食事を食べ終えた。





「チモーー!紙が出来てる!わ〜〜〜、お日様に透かすともっとキレイ」
 仕上がった紅葉入りの和紙を手に取り、窓辺ではしゃぐ物体が約一匹。
 少し離れだ場所から今後についてぽそり、ぽそりと打ち合わせる物体が二名+一匹。
 



「つまり・・・すべてはママ次第ってコトか・・・・・・」
 チモリが将臣を見つめる。
「そっ・・・そうはいっても、無自覚なんだからな!いつ、どうなるかなんて、わかんないっつーの!」
 将臣に自覚があるならばいいが、すべて無意識の産物なのだ。
 チビたちの存在すら、いつ、どこまで認めたのかも自覚が無い。

「まぁ・・・どっちでもイイ。俺は臣が楽しければ。クリスマスをして、年明けと共にもとの世界へ戻れば?」
「ほう・・・・・・そう・・・だな。大晦を境とは・・・上手いことを・・・・・・」
 チモリの意見に知盛が感心したように口元へ手を当てる。

「オイ、オイ。お二人さんだけなに分かり合ってんだよ」
 将臣が手のひらを揺らしながら知盛とチモリの注意をひきつける。

「年越しは・・・前の年の穢れなどを繰り越さないという考え方がある。年明けは新年というだろう?」
「何でも新たに。新しくってコト。古いものは前の年に置いていくって意味。ママの忘れ物も新しくって思わない?」
 左右からステレオ効果で説得されると、そんな気もしてくる。
 とはいえ、何も覚えていないほどの忘れぶり。どうやって探せばいいのか、糸口すら見えてこない。

「俺の頭の中がどうにかなってる・・・んだよなぁ・・・・・・」
 考え込んでいると、和紙を握り締めたチビ臣にダイブされる。



「マーマ!!!今日は何して遊ぶ〜〜〜?あのね、野原でかけっこか、野原で鬼ごっこか、野原でかくれんぼ!」
 体を左右に揺らしながら将臣の答えを待っているチビ臣の仕種がなんとも可愛らしい。けれど───
「オマエ・・・走るのばっか。体力勝負は今の俺には・・・・・・」
 途中までいいかけて手のひらで口元を隠す将臣。

「クッ・・・体力勝負、させていただいても?」
「いいっ!するな!余計な事は言わなくてイイっ!!!いくぞ、チモリ」
 素早くチビ臣を小脇に抱え、チモリの手首を掴むと玄関から飛び出していく将臣。
 同じ体力勝負ならチビたち相手の方がまだ勝算がある。



「おや、おや・・・・・・何がお気に召さないのか・・・・・・」
 わかっていて窓の外をみれば、もう三人の姿は小さくなっている。



「遅い昼メシになりそうだ・・・・・・」
 チビたちが疲れて早く寝るのは賛成だが、これでは将臣も舟をこぐだろう。
 今夜の予定は未定のまま、話は次回へ持ち越された。




 すべてはチビ臣にかかっている?───








(Printing day:2007.07.03)

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