[ チモリネコ? 第11話 ]





「で?夕飯は何がいいんだ」
 知盛がチビ臣を抱き上げる。始めからチモリに意見を聞く気はないらしい。
「えっとね・・・え〜っとぉ・・・・・・アレ!」
 アレじゃわからんと思いながらも、チビ臣の指差す方向を見る知盛。
 そこにあるのは、ラーメン屋の看板。
「・・・・・・どうやらチビ臣の豪華はラーメンみたいだな?」
 意地悪くチモリを抱き上げている将臣の方を向く。
「いいだろうが!チビが食いたいものが豪華なものだっ!」
 早くも負け惜しみ発言の将臣。
 チモリは興味がないらしく、大人しくしている。
「・・・おい、チモリもいいな?」
 無視かと思えば、何気に確認をとる知盛。
「うん・・・・・・餃子付なら」
「餃子もっ!それイイ。チモリ、頭いい〜〜〜」
 チモリが食べ物に興味があるわけもなく。
 チビ臣のために言ったに過ぎないのだが、チビ臣にはわからない。

 まるで日頃のすれ違いぶりを見せ付けられるようで、つい知盛も苦笑い。
「ここでは食べないで、家で作るからな。少し我慢しろ」
 店には入らず、食材を買いに行く。
「すっごく美味しいの作ってね」
「ああ」
 チビ臣に言われるまでもなく、店よりも旨いラーメンを作るつもりだった知盛。
(何だって作ってやるよ。将臣が食べたいものならな・・・・・・)
 姿が変われど、これも将臣。
 知盛が大切にすべき存在にかわりはなかった。



 買出しを済ませ、早くも台所では知盛指導で餃子教室が開催される。
「いいか?こうやって・・・こう。上手に包めよ?」
「うん!わかった」
 返事はいいが、不器用なチビ臣。
 返事はなくとも、黙々と上手く包むチモリ。
 対照的な二人を眺めながら、将臣も自分の分担である杏仁豆腐を作るべく、静かに鍋の寒天を煮溶かす。
「で?溶けたのかよ」
 知盛に言われて鍋を見れば程よく出来上がっている。
「あ〜、ああ。なんか出来てた」
 呆れつつも、次の作業を指で指し示すと、将臣はきっちり四人分の器に分け始める。
「おい、チビどもは包めたのかよ?」
「うんっ!ちょっとヘンテコだけど出来た」
 満面の笑顔で答えるチビ臣の皿には、バラバラの大きさの餃子が並んでいた。
 黙ってチモリの皿を見れば、大きさもきちんと揃った餃子の列がきっちり。
「・・・・・・責任もって食うように。後は遊んでろ」
「わ〜〜〜い!」
 仕事が終わってチビ臣はチモリの手を引いてテレビへ向かう。
 一方、将臣も知盛の様子を窺っていた。
「・・・何だよ」
「俺も終わりでいいか?」
 確認するまでもなく、将臣に料理の腕前は期待していない。ただ、出来そうな事を任せただけなのだ。
「・・・クッ、お前も遊んでこいよ」
「なっ!馬鹿にするなっ。俺はただ・・・あいつらが退屈しないように・・・・・・」
 真っ赤になった将臣の頭を軽く引き寄せ、耳へと囁く。
「お前がお邪魔かもな?」
 素早く知盛から離れて、後ろを振り返る将臣。
 チビ臣とチモリは、並んでテレビの前に手を繋いで座っていた。
「・・・・・・いいんだよっ!一応保護者がいるもんなんだっ!」
 またも負け惜しみを言いながら、将臣が台所を後にした。
「・・・クッ。ま、そういうところが可愛いんだがな」
 一度に全部出来上がるよう、時間を見ながら料理を続ける知盛。
 デザートも、食事にかかる時間を考えれば冷やすのにも十分な時間がとれる。
「さて。このぐちゃぐちゃな餃子ばかりは、俺でも旨そうに見せるのは難しいぜ?チビ臣」
 フライパンに並べながら、口元が緩む知盛。
 他の者が作ったのならば、即ゴミ箱行きだろう。
 見た目がどうあれ、これはチビ臣が一生懸命に包んだ餃子。
(責任もって全員で食べてもらうからな?)
 採点は甘くとも、連帯責任は取らせる方針らしかった。



「出来たぞ、テレビ消して来い」
 知盛に呼ばれ、チビ臣の耳が動く。素早くリモコンでテレビを消すと、決まっているかのように席に着く。
「早く、早く!」
「待て。全員座ってからだ」
 朝と同じ順番で席に着く一同。
「いただきまーーーーすっ!」
 チビ臣の大きな声で、他の三人の声はかき消されてしまった。

 ずるずる・・・ずずっ・・・・・・

 静かな部屋に響き渡る、ラーメンを啜る音。
 額に汗を光らせながら、必死の形相で食べるチビ臣と将臣。
 一方のチモリと知盛は、至ってクールに無表情のまま食事をしていた。
「あ、あつっ!」
 チビ臣が、口をパクパクと開けながら餃子を頬張る。どうやら熱さで口を閉じることが出来ないらしい。
「・・・クッ、誰もとらないから。冷まして食えよ」
 知盛にしては珍しい世話の焼きっぷり。
「そーだぞ。誰もとらないぜ?ま、知盛が作った具だから味はいいけどな〜」
 将臣は一度に二個ずつ頬張りながら相槌を打つ。
(どっちも、どっちだ・・・・・・)
 チモリ、心の叫び。気づいたのは知盛くらいのものだった。



 食事も終わり、手伝いにもならないチビ臣と将臣は仲良くテレビを観ている。
 台所では、知盛が食器を拭き、チモリが食器棚へ片付けをしていた。
「オイ・・・・・・知ってること、そろそろ話してもらおうか」
「・・・・・・俺だって詳しいワケじゃない。変なジジイが出てきて言った」
「は?」
 いくらなんでも、ここで嘘を吐くとも思えない。しかし、他の人間がいたなら、気配くらい感じそうなものだ。
「・・・いいよ。疑ってるんだろ?種らしいぜ、天上界の」
 小さな踏み台から、ぴょんと飛び降りるチモリ。最後の一枚の皿を片付け終えた。
「わかるように話せよ・・・・・・」
 チモリを抱えて、知盛が座った。小さいチモリと向かい合わせに、小声で話す。
 チモリ曰く───

 チモリとチビ臣が分離した時に、知盛と将臣が眠りから覚める事はなかった。
 どうしたものかと考えていると、チビ臣はさっさと知盛の腕を枕に寝てしまった。
 チモリも枕が欲しいので、将臣の腕にしようとした時に、件のジジイが現れた。
「やれ、やれ。こんなところに最後のひとつが・・・・・・うおっ?!既に使われてしまったのか・・・・・・」
 しかも、ばっちりチモリと目が合ってしまう。
「起きとったのか。珍しいのぅ・・・・・・この件は、忘れてくれんかの?」
 チモリは首を横に振る。こんなにじっくり目撃してしまったのに、忘れようがない。
「仕方ない。これはなぁ、天界で、その・・・子宝に恵まれないカップルのために開発された薬なんだが・・・・・・」
 チモリが手をぽんっと叩く。つまり、神様にも××がいて、子供が欲しいと。
 そんなカップルのための必需品ということかまで一気に理解した。
「・・・で?それが何故あの店で売られてる?」
 ジジイが言いにくそうに頭を掻く。
「その・・・開発途中の種をこの世界に落としてしまってな。コーヒー豆に混ざってしまったようなんじゃ」
 またも納得のチモリ。カプチーノはコーヒーだ。間違いない。
(材料に使われちまったのか・・・・・・)
「しかも、まだ研究途中でどういったわけか満月の晩にしか作用しない」
 月の力はまだまだ解明されていない。
 一説には、満月の晩には犯罪が増えるとの研究も人間界では報告されているようだが。
「さらに。子供は産まれるのではなく、本体からの一時的な分離なんじゃよ。もって一日程度かのぅ・・・・・・」
 ジジイがチモリの頭を撫でた。
「すまんが・・・オマエは本体にまた戻ってしまうのだよ・・・・・・」
「すまなくはないぜ?原因さえわかってるならな」
 素早くベッドのサイドテーブルに置かれているローションの容器を手に取り、ジジイに手渡すチモリ。
「ホラ。最後のひとつなんだろ?さっさと回収しろよ。そうしたら仕事オワリなんだろ?」
 妙に理解のあるチモリに、ジジイの方が苦笑い。
「・・・いいんじゃよ。オマエになら預けても良さそうだ。つかの間の夢に使うがいいよ。ただ、ネコ耳族の副作用は
調べていないんだが・・・・・・」
 ローションを放り投げ、チモリが肩を竦めた。
「さあ?少なくとも、消えようと、消えまいと。コイツらは困らなさそうだし。ジジイは気をつけて帰れよ」
 さり気に優しい言葉をかけるチモリ。失敗の後始末に奔走していたであろう、ジジイの最後の仕事だ。
「ははは。面白いやつだの。デカイ奴らに、説明してやってくれ。ではな」
 ジジイは煙と伴に消え去った。
「・・・クッ、どうでもいいよ。どうせコイツが気づくだろうし」
 知盛を一瞥すると、チモリも将臣の腕を枕に眠った。

「・・・こんな感じだった。その間、五分ってトコ」
「・・・ほう、それはまた面白い話だ」
 知盛はテレビを観ている二人を一度見てから、また視線をチモリへ戻した。
(まあ・・・聞かれはしないだろうが)
「それで。オマエはどう思ってるんだ?」
「うん、たぶん消える。身体が不安定なんだ。いい変えれば、チビな状態が精一杯」
 チモリが小さな手で、知盛の肩の辺りを軽く数度叩いた。
「後少し遊んでくれよ?」
「・・・クッ。遊んでやるよ・・・来月にもまた来い」
 チモリの額を指で弾く知盛。チモリを抱えて立ち上がると、テレビの方へ移動した。



 商談成立。満月の晩、将臣は大変頑張らされる事になった。
 すべては、チビたちに会いたいために───








(Printing day:2005.07.22)

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