[ チモリネコ? 第12話 ]
「チモ〜。暑くて死んじゃうよぅ・・・・・・」
ぐでぐでと床に転がる将臣。姿は小さいサイズのまま。
「暑いわけないだろうが。人の名前まで省略しすぎだ」
こつりと将臣の頭を叩く知盛。
エアコン完備のこの居住エリアにおいて、暑いわけがない。
運動すれば話は別だが。
「だってさ。暑い時は食べてもいいんだよね?」
あまりに将臣が氷菓子ばかり食べるので、知盛が決まりを作った。
食事を食べられなくなるほど食べる将臣の身体を心配しての事。
暑い日のみ、氷菓子をおやつにひとつ食べてもいい───
「今日はいい?ね〜、チモ〜〜」
大きな溜め息を吐く知盛。
「ね〜、ね〜、ね〜〜〜!」
「無いんだよ。あると隠れて食べるだろうが・・・・・・」
買い置きのアイスは無いと言われた将臣は、途端に不機嫌になる。
「暑い時は食べていいって言った〜〜。約束破った〜〜〜」
「まだ破ってない。買ってくればいいんだろう?」
将臣の表情が明るくなる。
「うん!買い物行くの〜?俺も行っていいの〜?」
「・・・クッ、駄目といっても来るんだろう?」
コクリと頷く将臣。
「・・・仕方ない。まだ暑いが・・・・・・行くしかないな」
知盛はわりと暑さが平気だった。『暑い日』とは、知盛でも暑いと思う日の事。
(今日は35℃超えてそうだ・・・・・・)
窓の外は、ギラギラとした太陽が輝いていた。
将臣を子供抱きすると、買い物へ出かける。
「で?今日は何がいいんだ?」
「一個だけ〜?え〜〜。明日も暑いよ、きっと。明後日も。たくさん買おうよ〜」
将臣なりに頭を使っているらしい。が───
「・・・クッ、冷蔵庫に鍵をつけたがな?」
将臣は項垂れた。
「いつぅ・・・・・・?」
「さっき。オマエがグデグデと転がっていた時だ」
実際、将臣がバテるようでは知盛のお楽しみも減ってしまう。
これはこれで、健康を気遣いつつ、自分の目的も達成という理由があっての事。
「チモのけちんぼ!」
「・・・アイスばかり食べるからだろうが」
将臣の頭を撫でると、いつもの商店街へと足を向ける。
「ほら。俺が来るまで好きなの選んでろ」
アイスを売っている店に将臣を残し、知盛は八百屋他を回ってくる。
買出しのついでにアイスなのか、アイスのついでに買出しなのか。
どちらともとれるような行動だった。
「わいv たくさん選ぼ」
冷蔵庫に鍵の話をもう忘れたのか、ケースの外からせっせとアイスを選ぶ将臣。
ケースを開けて選ぶと、叱られる事だけは学んでいた。
本日の夕飯。“夏野菜のカレー”に決定した知盛。
数日分、適当に使える食材を購入して将臣の待つ店へと戻った。
「チモ!これね〜、いろんな色があるよ?」
どこで脱線してたしまったのか、将臣が指差す先はかき氷のシロップ。
「・・・・・・そうだな」
とりあえず返事をする知盛。
「ね〜、ね〜。氷を削ってこれをかければ、いつものなんだよね?」
カップのかき氷に飽きたのか、見た目にこちらの方が原色に近くて色がいいのか。
将臣はすっかりアイスそっちのけでシロップの瓶を眺める。
(シロップ・・・ね。まあ・・・悪くないな・・・・・・)
知盛はここでいいアイデアが浮かんでいた。
将臣のかき氷盛り───
(俺もかき氷で涼しいし。将臣も涼しいよな?)
「・・・・・・何色がいいんだ?」
「いいの?じゃあね、おじさんに聞いておいたんだ。全部のセットがいい〜!」
(こいつ・・・頭がいいのか悪いのかわからんな・・・・・・)
単に己の欲望に忠実なだけなのだが、知盛には未だに将臣の行動が読めない。
それが楽しかったりするので、気にしてはいなかった。
「それも買うが・・・・・・そっちも必要だ。それと、一応アイスも選んどけ」
「え〜!そんないいの?」
すっかりその気になった将臣が飛び跳ねる。
「ああ。万が一って事もあるだろ?」
万が一などないのだ。あるのは、将臣の機嫌を損ねた場合の予防線のみ。
知盛の思惑など知らない将臣は、素直にいつものアイスをカゴに入れていた。
帰宅すると、アイスを冷凍庫へしまう。
そして、箱からかき氷機を取り出すと、氷と器をセットして将臣に任せる。
「・・・ほら。後は自分で氷作るんだ」
「自分で〜?わわ!氷が出てきた〜〜」
シャリシャリと氷が削れる音とともに、削られた氷が下の器に落ちてくる。
「わ〜、氷の出来立てだ〜〜〜」
変な表現だが、出来立てというのは正しい。
(しっかり楽しめよ?)
この隙に夕飯の支度を知盛は始めた。
「あぐっ・・・・・・赤は〜、イチゴだ。じゃ、次は・・・メロン!」
少しかけては味を確認してを繰り返す将臣。
器の中で混ざってしまったシロップは、複雑な色を醸し出していた。
「・・・クッ、全部試したのか?」
「うん。あのね、メロンが意外と美味しい〜〜〜」
メロンといっても、本物はこのような味はしないのだが気分の問題なのだろう。
最終的には将臣は緑色のかき氷を食べていた。
(へえ?じゃあ・・・俺はイチゴでデザートをいただくか・・・・・・)
「将臣。俺の分はないのかよ?」
「チモリも?じゃ〜作るね」
作るといっても、スイッチを入れるだけの話だ。
重要なのは、将臣が知盛のためにというところだろう。
「はい!チモリは何色がいい〜?」
ガラスの器を手渡される知盛。
「・・・将臣が好きなイチゴ」
「わかった!はいっ!」
少しきつめの色の液体の入った瓶も知盛に手渡す将臣。
「将臣は食べ終わったのか?」
器は空だ。だが、将臣は空になった器を見つめていた。
「後少し食べたい・・・かも・・・・・・」
指を咥えて、知盛の手にあるかき氷を見つめる将臣。
「少し食わせてやるから・・・・・・」
将臣をテーブルへ寝かせると、その服を剥ぎ取る。
「・・・・・・チモ?」
「待ってろ」
将臣の身体に、削った氷を軽く振り撒く。
「つめたっ!」
「少しだけイチゴ味・・・だよな?」
楽しく将臣を味わい始める知盛。
「うひゃっ!うぅ〜〜〜〜」
耐え切れなくなった将臣の身体が大きくなった。
「っ・・・何すんだよ、このバカ!」
思い切り知盛の鳩尾に蹴りを入れる将臣。
「・・・クッ、馬鹿はオマエだろ将臣。何ってナニだって教えただろ?」
さほどダメージが無いのか、将臣を組み伏せて氷を散らせる知盛。
「なっ・・・・・・」
動けばテーブル以外が汚れてしまう。
将臣が動かないのをいい事に、スプーンでひと匙かき氷を掬うと、その口へ運ぶ。
「ほら、美味いだろ?だから・・・俺にも喰わせろよ・・・・・・」
のんびりと将臣の身体に舌を這わせる知盛。
融けかけの氷を啜る音が耳に響く。
「・・・うっ・・・とも・・・り・・・・・・」
顔を上げると、口の端を上げて知盛が楽しそうに笑う。
「将臣にシロップをかけてもいいな・・・・・・甘いのは好きじゃないが・・・将臣は別だ・・・・・・」
真っ赤になった将臣が抗議の声を上げる。
「お、俺は食いもんじゃねぇ!・・・くっ・・・・だっ・・・べたつく・・・から・・・・・・」
大きな溜め息を吐く知盛。
「五月蝿い口だな。シロップはべた付くから嫌なのか?」
将臣が頷く。
またも笑みを浮かべて、知盛が将臣の耳元で囁いた。
「じゃあ・・・どう喰われたいんだ?」
ここまで焦らされたのだ。
将臣が「喰われたくない!」と言うはずも無く───
またかき氷をひと匙、将臣の口へ運ぶ。ただし、わざと零す。
「お行儀が悪いな・・・将臣は」
将臣の口の周りを丁寧に舐めとるだけの知盛。
将臣が強請るまで何も与えない。
「ほら・・・綺麗になった・・・・・・」
知盛が将臣を眺めていると、将臣の目に涙が浮かぶ。
「なっ・・・ど・・・して?・・・・・・」
「ああ。何もしない。でもな・・・今晩は満月なんだ。カレーの用意も出来ている。あいつら・・・・・・」
とくにチビ臣が楽しみにしていたとまでは言わない知盛。
「月齢くらいは見ておくもんだぜ?」
知盛が空になった器を片付け始める。
(さあ、どうするんだ?将臣・・・・・・)
答えはわかりきっているが、それでも知盛はもう将臣に触れなかった。
知盛に綺麗にされた将臣は、もう自分で動けるはずだからだ。
「知盛!」
テーブルの上で上体を起こす将臣。
ゆっくり知盛が振り返る。
「・・・何だよ」
「つ、続きだ!カプチーノで続きをしてくれ。じゃないと・・・約束が・・・・・・」
(だよな・・・将臣は約束を破れるタイプじゃないしな・・・・・・)
計算通りの行動だが、それが益々知盛の悪戯心に火をつける。
「・・・続きって何の続きなんだろうな」
そのまま器をシンクへ片付けるために歩き出す知盛。
体が大きくなって少しだけ余裕を取り戻した将臣。
「ば〜か。続きはナニの続きに決まってるだろ?それとも・・・ナニがわからないのか?」
テーブルから起き上がった将臣が知盛の方へ歩いてくる。
「・・・クッ、“ナニ”の続き・・・ね」
知盛が笑うと、将臣も笑う。
「ああ。が、その前に風呂だ。やっぱベタベタするわ」
風呂へ行こうとした将臣の腕を知盛が掴む。
「・・・どうせまたベタベタになるだろう?」
精一杯強がって将臣が返事をする。
「・・・俺は味は混ぜない主義なんだ」
「・・・へえ?それはまた・・・随分とグルメな事で・・・・・・」
(姫君はカプチーノ味か・・・・・・)
知盛が次の満月を調べているのを将臣は知らないままだった。
チビたちにまた会えるのかは、今夜の将臣の頑張り次第───
(Printing day:2005.08.22)
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