[ チモリネコ? 第13話 ]





「・・・・・・んっ・・・知盛・・・・・・もっ・・・・・・・・・・・・」
 背を撓らせると、将臣がベッドへ沈んだ。



「・・・・・・クッ、頑張らせ過ぎたな」
 将臣を横たわらせると、音を立てずに起き上がる知盛。
 手じかにあるバスローブを羽織ると、隣の部屋を覗くに行く。



「よう。約束通りだな?」



 チビ臣とチモリの為に用意した子供部屋だ。
 ベッドに寝ているチビ臣の頭を撫でていたチモリが、その手を止めて振り返る。

「・・・こっちは約束守ったんだ。そっちも守れよ」

 知盛は小さく笑うと、チモリを抱えて隣のベッドへ座る。
「まあ・・・・・・リクエストのカレーは用意したし。明日は弁当持って海に行こうぜ?どうだ」
 納得したのか、チモリが頷く。
「じゃあ、お前も寝ろ。チビ臣の隣も空いてるが・・・・・・一応ベッドは二つにしたぜ?」
 一瞬隣のベッドで眠っているチビ臣の方を見るが、知盛の膝から自分のベッドへと移動するチモリ。
「・・・今日はやめとく。蹴られる」
 もそもそとタオルケットに潜り込むチモリ。
「・・・クッ、そうか。次は秋だからな・・・・・・何がいい?」
 
「・・・・・・たぶん・・・団子。次は月見だろ?」
「了解」
 軽くチモリの頭を撫でると、知盛は子供部屋を出て行った。



 こっそり知盛とチモリの間で密約が交わされていた。
 何の事はない。一度のカプチーノ風スペシャルローション使用でチビ臣もチモリも本体から分離するのだ。
 しかし、二人が現れては将臣が続きをさせてくれるハズもなく。
 チモリの考えるチビ臣を喜ばせるプランを実行するなら、チモリがチビ臣を連れて即効隣の部屋へ移動するという。
 これなら将臣とのお楽しみの中断もなく、チモリもチビ臣が眠るまでは二人で遊べる。
 しかも、翌日はチビ臣にとって楽しい事が用意されているのだ。
 ある意味、将臣も楽しいわけで、知盛とチモリ、両者にとって悪くない約束だった。





「起きろよ・・・・・・カレーだぞ」
 チモリがチビ臣の体を揺する。
 昨晩はきちんと寝ていたのだが、今のチビ臣の頭は、本来足があるべき方向だ。
「うにゅ・・・・・・眠い・・・・・・カレー?!」
 チビ臣が飛び起きた。
「カレーなの?カレーどこ?」
 寝癖全開で部屋をウロウロするチビ臣。やや寝ぼけ気味だ。
「・・・・・・顔洗って着替えてからだよ。それに、お出かけらしいぜ?」
 “どこへ”を告げないのがポイント。それが期待を煽る。
「わい!すぐする〜〜〜」
 トテトテと、かつて知ったる洗面所を目指し走り出した。
「・・・・・・クッ、頭の中は食い物だけだな」
 チモリは知盛の手伝いをするのに台所へ戻った。



「おはよ〜、知盛。また遊んでね。朝ご飯、カレーでしょ?」
 勢いよく、前回決められた自分の席に座るチビ臣。
「・・・クッ、おはよう。もう食べられるんだが・・・将臣が起きて来ないんだ」
 いかにも困った風にチビ臣に話しかける知盛。
「っいしょっと。俺、起こしてくる!」
 椅子から飛び降りると、チビ臣が将臣を起こしに行った。

「ズルイ奴・・・・・・」
「朝から楽しんでいたら時間がないからな。それに、チビなら素直に起きそうだぜ?」
 知盛が笑う。ぐったりしている将臣をからかって楽しむのは好きだが、今日は時間が無いのだ。
「ほら、来た」

 腕にチビ臣を抱えた将臣が、のんびりと起きてきた。
「・・・はよ。コイツ、朝から俺にダイブしやがったぜ・・・・・・・・・・・・」
「だって、お寝坊してたら朝ご飯が遅くなるよ」
 まだ寝癖が残る将臣の髪の毛をぐいぐい引っ張りながら、席に座らせてもらうチビ臣。
「わ〜るかったって。また会えて嬉しいぜ?チビども」
 席に着くと、大きく欠伸をした。
「・・・クッ、しっかりしてくれよ?・・・ママさん」
 将臣の眠気が吹っ飛んだようだった。
「・・・・・・やっぱり、俺なのか?俺がマ・・・・・・」
「食べようよぉ!いただきますっ!」
 チビ臣に中断され、将臣のママが確定した。





 食事も終わり、満足したのかチビ臣はテレビの前に陣取る。
 どうした訳か、今日は大人しい。
「チビ・・・どうした?腹でも痛いのか?」
 知盛が声をかけると、チビ臣が振り返る。
「だって、おでかけなんでしょ?いい子にして待ってなきゃだよね」
「ああ。少しだけ待ってろ。いいところへ連れて行ってやるから」
 海へ行くともなれば、荷物が多い。チビの着替えにバスタオル。お弁当は食べれば捨てられる容器に詰めればいい。
「うん。チモリがね、お出かけだから、外で遊ぶとお出かけ遅くなるって。待ってるからね!」

 チモリも振り返って知盛を見る。返事代わりに片手を上げると、知盛は台所へ戻った。

「ふぅ〜っ、さっぱりした!お。お前等大人しいなぁ〜〜〜。どうした?」
 シャワーを浴びた将臣が、頭にタオルをのせたままでチビ臣とチモリの後へ座る。
「ママ・・・頭・・・ちゃんと拭かないと・・・・・・」
 チモリに指摘される将臣。
「・・・すいません」
 わしわしとタオルで拭きながらテレビを観る将臣。何気にママを受け入れていた。



「ほら、テレビ消せ!今日は少しだけ遠いからな」
「わ〜い!遠くだ〜〜〜」
 チビ臣ははしゃいでもう玄関へ一目散だ。チモリがテレビを消して後を追う。
 
 将臣へバッグをひとつ突き出す知盛。
「・・・・・・何だよ、これ」
 とりあえずそのバッグを受け取ったものの、ガサの割りに軽い。
「必需品。お前に弁当は持たせられない」
 知盛が弁当のバッグを持つと、揃って家を出る。



 天気は快晴、絶好の海日和。
 いつもと違う方向へのお出かけに、少し前を行きながらも知盛の姿を確認してからまた先へと行くチビ臣。
 チモリが一緒なので、姿が小さくなってしまっても心配はない。
 のんびり木陰を歩きながら、段々と違う種類の木々が茂る辺りへと出た。

「・・・・・・お前さ、どこへ行こうとしてんの?」
 手団扇をしながら知盛に尋ねる将臣。
「・・・・・・海」
 こちらは涼しい顔で歩き続ける知盛。
「よく知ってんな〜。だけど、泳げないだろ、あいつ等」
 姿がどうあれ、猫耳族なのだ。泳ぎが出来るわけが無い。もっとも、知盛は猫耳族ではなく豹の猫耳種だが。
「どうせクラゲばかりで泳げないだろうさ。いいんだ、足浸けるくらいで」
「さいですか!まあな、それでも涼しいだろうしな」

 また黙々とヤシモドキなどが生い茂る道を歩く。
 海の音がした───



「チモリ!海だよ、海だ〜〜!」
 残念だが、チビ臣の体には海の記憶が無かった。テレビで観て海は知っている。チビ臣が走り出す。
「バッ・・・・・・危ないから!」
 いきなり飛び込まれたらかなわない。慌ててチモリもその後を追って駆け出した。

「あ゛〜〜、あいつ等行っちまったな・・・・・・」
 将臣も早く行きたい事は行きたい。海は大好きだ。
「・・・ほら、ソレだせ。あいつ等が溺れないよう、確保だ」
「OK!任せとけって」
 知盛の手にバッグを渡すと、将臣が走り出す。
「・・・・・・将臣の方が飛び込みそうだ」
 両手に荷物を持ったまま、適当な場所を探しながら海辺へと知盛は歩き続けた。



 裸足で海に入り戯れている三人を横目に、レンタルしてきたパラソルを広げてシートの上に荷物を置く知盛。
 荷物をあければ、ビーチボールが出てくる。黙って息を吹き込むと、段々と膨らむビーチボール。
「ほら、チビ!これで遊べ」
 チビ臣に見せると、飛んできた。

「わ〜、わ〜!パパは用意がいいねっ」
 知盛の手から素早く奪い取ると、また戻っていくチビ臣。本日の家族ごっこ、知盛もパパ役が確定した。

「さてと。しばらくはあれで持つな・・・・・・」
 ごろりとシートに寝転がると、本を取り出す。
 ボールに飽きた頃には砂遊びの道具を出したりと、とにかく遊ばせるのが上手かった。



「お腹空いた・・・・・・」
 誰がご飯を作るのかよくわかっているらしく、すっかりびしょ濡れになったチビ臣が知盛のところへ戻って来た。
「・・・・・・少し待ってろ」
 将臣を手招きすると、シャワーの場所を指差す。
「お前はチビを洗ったらこっちへ寄越せ。チビの着替えは俺がする。お前は自分でしろ」
 バスタオルと着替えを手渡される将臣。
「・・・・・・用意がよろしい事で。チビども、行くぞ〜〜。着替えたらメシだからな。言う事きけよ?」
「わ〜い!」
「・・・・・・・・・」
 明らかに“メシ”という言葉の効き目があるのはチビ臣だけだ。

「・・・・・・忙しくなるな」
 読んでいた本に栞を挟み、バッグへしまう。
 チビ臣とチモリの着替えとバスタオルを用意すると、シャワーの方へ向かった。



「いっちば〜ん!」
 シャワー室から一匹目、チビ臣が出てきた。ぷるぷると全身を震わせて水飛沫を上げる。
 動きが止まったところでバスタオルでキャッチする知盛。
「ほら、拭くから逃げるな」
 パタパタと拭くと、さっさと着替えさせて、最後に頭にバスタオルを巻きつける。
 インド人のようだが、髪ばかりは拭いただけでは乾かない。

「・・・・・・出た」
 チモリへはバスタオルを投げると、大人しく自分で拭き始める。静かに着替えた後、何事か考えているようだ。
「・・・来い」
 チビ臣とおそろいに頭にバスタオルを巻きつける。
「ママは自分で出来るから、先に昼メシの準備するぞ」
 チビたちの頭を軽く叩くと前を歩く知盛。その後を飛び跳ねながら着いて行くチビ臣。
 チモリは手を繋がれているため、チビ臣に引っ張られながら着いて行った。



 シートに並べられた紙箱の数々。
「開けたら、蓋をこうすれば邪魔じゃないだろ?」
 言われたとおりに箱を開けては蓋を弁当が入ってる方の箱へ重ねるチビたち。
「わ〜、卵焼き。タコさん。おにぎり〜、赤いご飯だ。これは・・・お魚?餃子にぃ・・・・・・」
 段々と手が止まり、チビ臣の口元からは今にもよだれが零れ落ちそうだった。
「・・・クッ、ママが戻るまで待てよ?後五分で来るだろうから」
 お茶の用意をしながら知盛が笑う。先にオレンジジュースを飲ませる事にした。


 五分どころか三分で将臣が走って戻って来た。
「うおぉぉぉ〜、美味そう。食べていいのか?」
 伸ばした手を知盛に叩かれる将臣。
「・・・チビを待たせたんだ。挨拶しろ」
 飲み終わってしまった紙コップをガジガジと齧りながら待っていたチビ臣。恨みがましい目で将臣を見ている。
 将臣がチビ臣の頭を撫でた。
「わ〜るかったな!それじゃ・・・・・・」
 ぱんっ!と全員で手を合わせ、
「いただきますっ」
 軽く御辞儀をすると食べ始めた。



 時計はもう一時になろうとしていた───








(Printing day:2005.09.21)

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