[ チモリネコ? 第16話 ]
昼寝から目覚めたチモリが知盛の許へやって来る。
「・・・起きたのか」
「うん」
しっかりと知盛の膝の上に座る。
「・・・今度は何だ?」
読んでいた本を除けて、チモリが座る向きを変え、向かい合わせに座らせる。
「何でもない。今日は・・・・・・月が出るの遅いな」
「・・・そうだな」
十六夜の月は、十五夜に比べると一時間近く遅くに姿を見せる。
「・・・・・・チビ臣・・・待てるかな」
「さあな」
チモリの耳を摘まむと一瞬首を振るものの、嫌ではないらしく大人しい。
「・・・・・・無くなったら・・・終わりだな」
「・・・そうなるな」
知盛とチモリはわかっていた。カプチーノのローションがあるのは永遠ではない事を。
「そろそろ・・・おしまいかな」
「まだ・・・だな・・・・・・浴びるほど使っちゃいない」
チモリが知盛に抱きついた。
「俺の・・・・・・記憶って・・・どこへいくと思う?」
「さあ・・・ここ・・・・・・かもな」
チモリを片手で支えながら、知盛は自分の心臓の辺りを指で数度軽く叩いた。
「こっちじゃなくて?」
チモリが頭を指差す。知盛が口の端を上げて笑った。
「俺にしちゃ素直だからな・・・・・・幼い時の俺の記憶が入ってるのかもな」
チモリの耳に息を吹きかけた。
「うぷっ!ヤメロ・・・・・・耳は!」
ぽふぽふと知盛を叩くチモリ。
「・・・気持ちイイだろ?」
「楽しい訳ないだろ」
知盛の胸に手をついて、精一杯離れようとするチモリ。
「・・・・・・クッ、だったらあっちに行くんだな」
向かいのソファーでは、将臣がまだ眠っていた。
「・・・・・・あいつにとっての“知盛”はお前だ。身体は小さいし、虚しいだろ」
知盛がチモリの頭を撫でる。
「・・・・・・俺もだ。コドモとやる趣味はない・・・・・・。そろそろチビが起きてくるな。三色団子とおかきがおやつだ」
チモリを片手に抱いて立ち上がる知盛。
「ふ〜ん。おかき・・・ね」
「いい組み合わせだろ?」
「・・・まあな。上出来」
知盛とチモリが台所へ行った気配を確認してから、静かに将臣が目を開く。
「・・・・・・そう・・・だよな・・・・・・・・・・・・」
将臣は気づいていなかった。この時間には終わりがある事に。
(気づいたら・・・俺だけ放り出されていたんだ・・・・・・・・・・・・)
家族はいた。弟も幼馴染もいる楽しい環境は確かに存在した。ただ、気づいたら一人で放り出されていた。
どれぐらい彷徨っただろうか?それなりに食事にはありつくものの、また違う場所へ移り続けた。“家”を探して。
(知盛が・・・ダンゴ食ってたんだよな・・・・・・)
ダンゴは好きだ。かなり食べたかった。けれど、それだけではなかった。
(もう家族には会えないって、気づいてたんだよな・・・・・・でもさ・・・・・・)
「知盛とダンゴ食べたら楽しそうな気がしたんだよな・・・・・・」
よもや自分が喰われる羽目になるとは想像もしなかったが、こういう形での家族が出来るとも思っていなかった。
「ま、先の事考えても仕方ないなっ!おやつの時間だ」
ソファーから起き上がると、台所を目指した。
匂いを嗅ぎつけたのか、チビ臣はもう自分の席で準備されていく本日のおやつに目が釘付けになっていた。
「お前食い意地はってんな〜〜〜」
ぴこぴこと耳が動いているチビ臣の頭を撫でる将臣。
「・・・クッ、本体に言われても説得力ないな」
知盛が笑いながらおかきをひとつ放ると、将臣は口で受け取る。
「あ〜〜〜!ママだけズルイ!」
背伸びして必死に将臣の口を開こうとするチビ臣。
「やーめーろーっての!知盛も、こいつを煽るなっつの」
将臣が指で合図すると、今度はチビ臣におかきが投げられる。
“パクリ”と音がしそうな飛びつきぶりに、知盛も苦笑い。
「・・・餌付け・・・だな、これじゃ・・・・・・・・・・・・」
チモリをみれば、せっせとダンゴを皿に取り分けている。最早いつもの事なので無視らしい。
「餌っていうな、餌って。こいつは俺の・・・・・・なんだ?コドモっていうか・・・分身っていうか・・・とにかく。ペットじゃねぇって!」
自分の隣にチビ臣を座らせて、将臣も席に着く。
「へぇ?・・・・・・ペットじゃなかったのか・・・・・・・・・・・・」
どこからどうみても、小さくて耳がピコピコと動いている様はペットそのもの。
「分け終わった」
チモリが話を中断させたので、そのままおやつの時間となる。
口中を汚しながらダンゴを食べる様は、二人の将臣に共通だった。
「・・・・・・どうして一度にそういくつも頬張るかな・・・・・・・・・・・・」
ここは外ではない。敵はいないのだ。
「ん?ん〜、早く食いたいから・・・んぐっ」
「んきゅっ・・・・・・から!」
将臣の返事に追随するチビ臣。
「・・・・・・食べてる時だけは静かだな」
のんびりと緑茶を啜れば、隣のチモリは黙々と食べていた。
「・・・・・・感想は?」
あまりに静かなので声をかける知盛。
「・・・・・・美味い。よく出来ました」
「・・・・・・お前に言われても・・・な」
知盛はもう食べるつもりはないらしく、まだ団子ののっている皿を将臣とチビ臣の前に出す。
「ま・・・足りなければ食うんだな・・・・・・」
「ラッキー!」
「らっきぃ!」
仲良く一串ずつ分け合う将臣とチビ臣。二人の皿はもう空になっていた。
午前中に知盛が用意しておいた月見団子用の素をビニールを敷いたテーブルに置く。
「・・・・・・いいか、最低丸い団子を十二個だ。これだけは守れ。後は各自ご自由にどうぞ」
参加するつもりはないらしい知盛は、ひとりだけ椅子を移動させ離れて座った。
「っしゃ!まずは・・・この大きさに千切れ。で、丸めてこっちの皿に置くぞ〜」
将臣の仕切りで団子作りが始まる。
最初の一個が大きかったために、やや大きめの団子が並ぶ。
「・・・・・・まぁ・・・いいか!知盛〜、出来た」
先に湯を沸かしていた知盛が皿を取りに来る。
「・・・・・・へぇ・・・饅頭並だな・・・・・・・・・・・・」
「ウルサイ!こいつらの面倒みながらなんだ、文句言うな」
どこをどのように見ても横一列で、とても面倒をみているとは言い難い。
一通り眺めると、知盛は先に月見の飾り用団子を仕上げるべくテーブルから離れた。
「チモリはさぁ〜、まんまる以外は作らないの?」
粘土遊びのような形の団子を並べたチビ臣がチモリの団子の皿を指差す。
「・・・・・・これ、茹でるんだぞ。形なんて崩れる」
「ええっ?!」
チビ臣が将臣の皿を見れば、星型の団子が並んでいる。
「・・・だって。将臣のも“ぐちゃっ”だよ?」
「ん?俺のはイケルだろ。チビのはさ、それ亀か?手足みたいに細かいのが微妙だと思うぜ?」
再び自分の皿を見るチビ臣。
「・・・・・・亀さん・・・・・・ダメ?お魚は?」
「そっちは・・・まあなんとかな」
何ゆえ海の生き物シリーズになっているのかは不明だが、おそらくイカにタコにクジラもいた。
先に仕上がった月見団子を三方へ並べて、ススキの隣へ置く知盛。
チビ臣の皿を見て夏を思い出した。
「・・・・・・海・・・楽しかったのか?」
「うん!・・・・・・これ・・・形なくなっちゃう?」
チビ臣が泣きそうな顔で知盛を見上げた。
「・・・クッ、大丈夫だ。チビのは蒸してやる」
軽くチビ臣の頭を撫でると、蒸し器の用意をする知盛。
将臣の団子もチモリの団子もザラザラと鍋に入れられて一度に茹でられた。
が、チビ臣の団子だけは丁寧に蒸し器で蒸された。
仕上がった団子が皿に並ぶ。チビ臣の団子も無事に形を保っていた。
「わ!食べていいの?」
チビ臣の額を将臣が指で弾いた。
「おまえ、さっきおやつに団子食っただろ?・・・・・・けど、確かにコレいつ食うんだ?」
将臣が知盛の方を向いた。
「・・・クッ、夕飯。団子がメインだ。おかずは色々作るが、飯食べたら食べられなくなるだろ」
「な〜るホド。・・・・・・目の前にあって食えないのは痛いよなぁ〜」
将臣とチビ臣は、自分の前にある団子が置いてある皿を見つめる。
チビ臣は、もう指を銜えて見ていた。
「・・・・・・早すぎだ。トランプでも何でもして時間を潰すんだな」
知盛に台所から追い払われた三人。
「・・・何する?トランプか?ほら、何でもいいぞ。外じゃなければ」
将臣が二人の間に座り、遊ぶ体勢を整える。
「ババ抜き!」
チビ臣が手を上げて遊びを決める。
「んじゃ、トランプな。チモリもいいな?」
チモリは黙って頷いていた。
ようやく日が落ちて、辺りが暗くなり始める。
「・・・・・・外でもいいな」
知盛がレジャーシートを外に用意していた。
この家は大きな木の下なので、外からは見つかり難い。
「チビども、外でメシだ。運べ」
大皿に細かいおかずを色々と並べたものを将臣が運ぶ。
チビたちは団子の皿を持って並べていた。
「ピクニックみたいだね〜」
チビ臣はコロリとシートに転がって星を眺める。
「・・・・・・大人しくしてろ」
すっかり手伝う気がないチビ臣を残して、チモリがせっせと働く。
「つまみ食いが美味いんだよな〜」
将臣も働くつもりはないらしく、チビ臣の隣に転がっていた。
「・・・・・・クッ、揃いも揃って・・・・・・」
飲み物を準備してきた知盛が最後に座った。
「どれでも適当に食べるんだな」
団子につけるきな粉や餡子も用意してある。
チビ臣が知盛の作った団子を見つけた。
「うさ!うさうさ!!!」
「・・・クッ、真っ先にこれに目をつけたか・・・・・・・・・・・・」
デザート用にと作ったウサギ形の月見団子。中はカスタードか餡子が入っている。
「それも・・・お団子?うさうさ!」
知盛が皿を出してやると、チビ臣はウサギの頭からパクリとかじった。
「わ〜!クリームだ。うささん、美味しいよ、チモリ」
かじり口を見せられても、美味しいかは判別のし様がないがチモリは黙って頷く。
「チモリも食べなよぅ」
空いてる手でウサギ形の月見団子を手に取ると、チモリの口元を押し付ける。
仕方が無いのでチモリが一口かじると、こちらは餡子入りだった。
「わ!中身がちがう〜〜、じゃチモリはこっちあげる」
先に自分で食べたクリームのウサギをチモリへ渡すと、チモリがかじった残りを食べるチビ臣。
「これはおダンゴな味。うん、ダンゴ、ダンゴ」
何よりも先に団子にかじりつくチビ臣の様子を見ていた知盛が将臣を見る。
「・・・・・・と、いうことらしいが?」
「うるせえなぁ。ダンゴ好きなんだからいいだろ!俺が好きなものは、チビは更に好きみたいだな〜」
肝心の月見もせずに、小さな宴と洒落込む四人だった。
食事も終わったので、知盛がチビたちにはオレンジジュースを用意し、自分たちには酒を持ってきた。
「月・・・・・・丸だけど少し足りない感じはするよな・・・・・・」
三人が並んで寝転ぶ脇に知盛が腰を下ろした。
「・・・クッ、一日分足りなくて当然だな」
知盛が後に寝転がると、ちょうど将臣の腹部に知盛の頭が当たる。
「・・・・・・俺は枕か?」
「一日働いたんだ・・・これくらいいいだろう・・・・・・・・・・・・」
そのまま月を眺める知盛。
「パパ、ジュース飲んでいいの?」
チビ臣が将臣の上にのって知盛の頭を軽く叩く。
「・・・ああ。零すなよ?」
「うん!チモリも飲も〜」
トレイに置かれたグラスに手を伸ばすチビ臣。
「ぷはぁ〜〜〜。美味しいね!」
「・・・おい、おい。オヤジが酒飲んでるんじゃねえんだから・・・・・・」
将臣が笑いながらチビ臣を見る。
「だって。ごくごくしたら普通言うよ?」
一気に飲み干したグラスをトレイに戻して転がるチビ臣。
「情緒ってもんが・・・・・・」
「お前もだ」
チビ臣に風情を語ろうとした将臣に、知盛が冷たくつっこむ。
「・・・・・・いいさ。楽しければ。な!」
月が空へ昇るのを静かに眺めた夜。
小さな音がして隣を見れば、チビ臣とチモリの姿は消えていた。
(Printing day:2005.10.17)
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