[ チモリネコ? 第17話 ]





「知盛。あのさ・・・・・・・・・・・・」
 ある日の朝、将臣が唐突に切り出す。
 
 天気がいいので洗濯物を干していた知盛が振り返る。
「・・・珍しいな。起きられたのか」
 また視線を洗濯物に戻し、干す作業に取り掛かる。
 昨日の頑張り様だと、知盛の予定では将臣の起床は昼だと予想されていた。


「あ、ああ。あ!腹が減ったとかそういうことじゃないからな!」
 将臣が言った途端に腹の虫が空腹を主張した。

 きゅるるるっ───

「・・・クッ、半分半分ってトコらしいな」
 手早く最後のシーツを干し終えると、将臣の肩を叩く。
「ほら。何か作るから中へ入れ。・・・・・・なんなら続きのお誘いだといいんだが」
 本日の将臣、大きな姿のままだった。
「なっ、ばっ!話があるからだ!チビだとお前が話しを聞かないだろっ」
 聞かないなどという事はない。
 単にチビの将臣だと説明がヘタというだけだ。
「・・・クッ、聞くさ。その前にメシな」
 いつ将臣が起きてもいいように、一応の用意はしてある。
「・・・・・・わかった。メシ食ったらな」
 知盛に手を引かれる格好で部屋の中へ入った。





 食事も済み、リビングのソファーに並んで座る。
 知盛はコーヒーを飲んでいた。
「・・・で?」
 カップを置きながら、知盛が話しの続きを促した。
「あ・・・・・・ああ。その・・・チビたちの事なんだけど・・・さ」
「ああ。次の満月はそろそろだな。ついでに部分月食らしい」
 満月がいつかは具体的に言わない。

「そ、そうか。でさ、どうしてチビが出てくるのかなっていうのがさ・・・・・・」
 膝に手をつき、前屈みの姿勢のままで将臣が考えながら言葉を紡ぐ。
「満月の晩のカプチーノローションのおかげだな」
 将臣とは反対に、事実だけを簡潔に知盛は返事する。

「う、うん。でさ、そのカプチーノのローションなんだけど・・・あの店にまた買いに行ったら・・・・・・」
「同じものとは限らないな」
 残念だが、製造日とロット番号を調べる程暇ではない。
 それに、あれから大分月日が過ぎている。

「そ、そうだよな・・・・・・。あいつらに会えなくなるんだよな」
「俺だけじゃ不満か?」
 将臣を抱き寄せて額へキスする知盛。
「俺さ、家族とはぐれたんだよ・・・・・・俺が寂しがってたからあいつ等が・・・とか。色々考えてて・・・・・・」
 知盛の膝へと将臣が横になった。
「・・・・・・こっちで誰にも会えなくてさ。一ヶ月くらい経ってたか時かな。お前がダンゴ食ってるの見つけた」
「・・・クッ、俺じゃなくて団子・・・ね」
 今度は足もソファーへ上げて、完全に知盛を見上げる姿勢で横になる将臣。
「そういうなよ。こっちのルールなんて知らねぇしさ。適当に、こう・・・食べ物漁りながら暮らしてた」
 黙って知盛は将臣の額を撫でる。
「あれって・・・俺のためにチビたち出てきたのかもな・・・・・・・・・・・・」


 知盛の予想以上に将臣が考えている。
(・・・参ったな・・・・・・じじいを捕まえる作戦でも立てるか?)
 チモリの話によれば、落とした種の回収漏れなのだ。
 種を手に入れて栽培すれば、少なくとも原料には困らなくなる。
(原料があるなら、ローションにしなくてもいいんだろうしな?)
 誘引物の形状がどうあれ、行為の条件付だ。
(行為より、将臣の心的モノだとするとやっかいだな・・・・・・)

 知盛が考えていた時間は僅か数秒。将臣への返事までにそう時間はかからなかった。


「・・・クッ、だったら本当に産んでみろ。面倒みてやるから」
 知盛が将臣の唇へ指を伸ばすと齧られた。
「・・・だから。そういう機能は持ち合わせてねぇっての。人が真剣に話しをしてるのに」
「悪い口は塞ぐだけだ」
 膝を動かし、将臣の顔を引き寄せて深く口づけた。



「・・・将臣。チビがいないとココには居たくない?」
 ぐったりしている将臣の額を撫でながら、知盛が問う。
「・・・・・・そういう意味じゃねぇけど。俺たちには子供は出来ないし。このままずっと家族は増えないんだ」
 
 父と母、弟に隣の幼馴染、他にもたくさんの友人に囲まれていた。
 ここでは知り合いがいない。

「俺も・・・家族は山ほどいた。大所帯でな・・・・・・従兄弟どころか兄弟だけでも片手じゃ足りなかった」
 将臣の目が見開かれた。
「知盛もか?お前は初めからココの住人だとばかり・・・・・・」
「ば〜か。俺の耳、猫に見えるだろうか豹の耳だ。将臣とじゃ種族すら違うんだよ。町でよく見てみろ。種族が混ざってる」
 今の家も交友関係も、すべて知盛が自分で勝ち得てきたものだ。
 すっかり馴染んでいたし、だらけた生活をしていた時期もあったが、それでもなんとかなったのは知力と腕力の賜物。

「・・・知盛は・・・家族を探しに行かなかったのか?」
 将臣の質問からして、将臣が相当探し回ったのだろうと推測できる。
「ああ。ここは・・・いわば別の次元なんだろうな。何かのきっかけで迷い込んだ者たちの集まりだ」
 将臣が起き上がり、ソファーで胡坐をかいた。
「何でそんな事がわかるんだよ」
「人間。前もいたけど、ここは・・・・・・いわば別世界だ。人間が俺たちを認識してる。前は・・・人には見つからなかった」
 首を傾げる将臣。
「意味わかんねぇ。人間、いただろうが。前だっていたぜ?」
「いた。それは同じ。だが・・・この世界の人間は・・・・・・大きな姿の俺たちも認識出来てる」

 知盛がいた世界では、小さな時は人間にも見えたらしい。
 時々餌ももらえたし、遊び相手にもなった。
 ただし、一族といる時の大きな姿の時は見えていないようだった。
 また、一族が住まうあれだけの広い居住区までもが見つかっていない。見えていないとしか思えなかった。

「それって・・・・・・」
「あの人間たちも迷子なんだろう。俺たちと同じだ。奴等の世界から放り出されてココにいるんだ」

 将臣も考えなかったわけではないが、ココが異空間とまでは考えていなかった。
 違う島へ来てしまったのだろうというくらいの考えは持っていたとしても。
 
「知盛は・・・いつからそんな事を考えていたんだ?」
「さあ。いつだろうな?ただ・・・ココは誰かの夢の中なのかとか・・・な・・・・・・・・・」
 
 将臣が真っ赤になって手近にあったクッションを抱える。
「・・・すげーキザ。お前って、どうして口からスラスラそういうセリフ出てくんの?」
 クッションに顔ほ押し付けている将臣の耳が赤い。
 その耳に噛み付く知盛。
「・・・クッ。・・・口説いてるんだから、その気になってもらわないと困るんだがな?」

 静かにソファーに将臣を押し倒すと、覆いかぶさる知盛。
「・・・・・・まだ昼前だぞ?外が思いっきり明るいんだけど?」
 めげずに窓の外を指差す将臣。
「明るい方がよく見えるだろ?」
 さっさと将臣の服に手をかける知盛。
 会話は不成立だった。







「ちょ〜豪華な昼飯じゃないと納得いかねぇ・・・・・・・・・・・・」
 ソファーで知盛の上に寝ている将臣が声を上げた。
「・・・クッ、まだ一時過ぎたくらいだろ?まだ昼の範囲だ」
 胸の上にある将臣の頭を撫でれば、将臣が時計の方へ首を動かした。
「二時だ。に・じ!今から作ったら三時近いだろ〜〜。デザート付きに決まってる」
 軽く片眉を上げる知盛。
「ふむ・・・・・・将臣次第?」
「何で俺次第なんだよ」
 将臣が知盛の上から移動しようと、床に手をついた。
「・・・・・・動くと刺激が加わるからだ」
 さも当然という様に知盛がその両手を広げた。

「・・・ありえねぇ。メシくらい食わせろよ」
 ずるずると床に座る将臣。
 途中で気づいていたが知らないふりをしていた知盛の分身は元気だった。
「知盛って、どういう神経してんの?」
 出来るだけ視界に入れないようにしながら問いかける。

「お前が寝ている時に動くのが悪い。寝ている時くらいはと、何もしないで待ってたんだぜ?ご褒美モノだよな?」
 隠すわけでもなく、片手で前髪をかき上げながら知盛の視線が将臣を捕らえた。
「将臣は、腹がふくれたらお昼寝なんだろう?」
 口の端を上げ、意地悪い視線で将臣を見つめ続ける知盛。

「・・・ったく。食ってからでも、食う前でもスルつもりなんだろ?手でしてやるからメシ作れ!」
 将臣が知盛の分身に手を伸ばすと、知盛に指で頬を突付かれた。
「大切に食べてくれた方が好みなんだが?」
 
 床に両手をついて項垂れる将臣。
「・・・注文多すぎた・・・・・・腹へって力が抜ける・・・・・・・・・」

「・・・クッ、冗談だ」
 知盛は将臣の頭を軽く叩くとソファーから起き上がる。
「・・・後から来い。頭洗ってやる」
 さっさとシャワーを浴びに知盛が歩いて行ってしまった。

「・・・イチイチ憎たらしい態度なんだよなぁ」
 手近にあった知盛のシャツを掴むと羽織る。
「ま・・・色々考えなきゃならない事だけは確かだな」

 これからの事。チビたちの事。元の世界へ戻れるとしたら───
 考えは尽きない。ただ・・・・・・

(元の世界には知盛もチビたちも居ないんだよな)
 考えを振り払うように頭を振ると、将臣も少し遅れてシャワーへと向かう。



 まったり、のんびりのまま終わった秋晴れの日。
 二人は今後もこの話題について、思い出したように話すことになった。








(Printing day:2005.11.13)

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