[ チモリネコ? 第18話 ]
「だから!量の問題じゃねぇ?もしかして、多く使ったらとか・・・・・・・・・・・・」
今夜は満月という日の朝、将臣は上機嫌だった。
洗濯を干し終えた知盛が寛ぐ隣に、ぴったりと座る。
「・・・まだ考えていたのか」
とにかく将臣は、思い出したようにこの話題を持ち出す。
しかも、そういう時に限って大きな姿なので、知盛に都合が良い事この上なかった。
「それよりも・・・部分月食みるんだろう?」
空を見上げれば、真昼の月がある。
「そうだ、そうだった!あれだよな〜、月が欠けてまた戻るんだから。珍しいんだぜ?」
今回は月食ではなく、部分月食。月の一部が少し欠けて、また戻るまでに一時間半程度。
「・・・クッ、座るならココへ来い」
知盛が自分の膝を指差す。
確かに、座って見上げ続けるには首の角度が厳しい。
「さんきゅ!・・・知盛は見ねぇの?」
「・・・俺は馬鹿口開けて空をみている将臣で十分」
知盛の指が妖しく将臣の唇へ触れた。
「・・・・・・ココは外だっての!」
木の下にある家の、考えようによっては庭先。
「へえ?将臣はココでしたいのか?」
「・・・しない。つか、月食見せろ。今夜はお前が好き放題・・・って、話が途中になっちまっただろ!ローションの使用量の話が!」
将臣が知盛の鼻先を指差した。
「いいから聞け!あれだ、薬の成分ってさ、薬の量と効き目は比例するだろ?だから・・・・・・」
「多く使えば、あいつ等が長くこちらの世界に留まれるとでも?」
知盛に向かって指を鳴らす将臣。
「その通り!話が早くて助かるぜ〜〜〜。だからさ、今夜は俺・・・その・・・多くていいから・・・・・・」
将臣、主語不足。
「はい、はい。倒れるまで御奉仕させていただきますよ。いくらでも・・・・・・」
都合よく、“行為”の“量”と変換。
『愛し合うのは嫌いじゃないしな?』
小声で将臣に言うと、体を屈めて口づけを落とす。
「んぐぅぅぅ!・・・・・・ちっ、・・・・・・・違う!・・・・・・んふ・・・っ・・・・・・・・・・」
「・・・違わないぜ?どの量かは断言出来ないだろ?」
さり気なく都合のいい方向へ将臣の思考を誘導する。
「・・・・・・あ・・・」
将臣の理論で言うと、量にも種類がある。
重要なのは、“何”の量か?───
「・・・げげっ!なんか、知盛にだけ都合が良くねぇ?」
将臣、やはり頭が少々ユルイ。
カプチーノ味のローションの量を増量、イコール、行為も増量。
行為を増量、イコール、結果としてカプチーノ味のローションも増量。
見事な相関関係である。
バラバラのモノと考える方がおかしい。
「・・・クッ、クッ、クッ。お楽しみは夜にとっておくとして・・・月が欠け始めた・・・・・・」
「あ゛・・・ホントだ。端が少しだけ凹んだ」
月が丸くない。やや影がある月は、齧りかけのせんべいのようだ。
「・・・知盛」
「ああ。午後にはせんべいでも買いに行くか?ついでに、念の為あの店にもよって在庫を調べるか」
言わなくてもすべてをわかってくれる存在───
「駄菓子屋も行こうぜ?明日、チビたちが食うだろうし・・・・・・」
知盛の手が将臣の頭を撫でる。
「・・・お前が一番食いたいんだろう?」
「ま、そうだけどよ!」
しばらくは欠け続ける月を見ていた。
少しだけ早めの昼を食べて、買い物へ出かける。
「・・・俺さぁ〜、あんまりこの姿でココへ来た事なかったよな〜〜〜」
大きな姿のままで訪れると、視線の高さが変わるので新鮮だ。
「・・・・・・荷物持ちには好都合だな」
隣を歩く知盛は、相変わらずの悠々とした態度で道を横切る。
「ちょっ!待て、そっちは・・・・・・」
将臣が呼び止めると、知盛が振り返った。
「・・・確認・・・したかったんだろう?ただし、俺から離れるなよ」
再び路地裏へ向かって歩き出す知盛。
(・・・そうだけどよ・・・・・・無かったら・・・・・・希望が断たれちまうんだぜ?)
カプチーノ味のローション、この場合は、件のコーヒー豆成分が入っているモノ限定だが、それが無いとなると───
(あの家にあるの限りってことじゃねぇか・・・・・・)
今夜は多めに───
そんな事を考えて口にしたものの、実のトコロは大切に使いたい。
コドモは世話が面倒な時もあるにはあるが、楽しいのだ。
(知盛はさ・・・冷静だよな、いつだって・・・・・・)
気を取り直して、急いで知盛の後を追いかけた。
「・・・・・・コレ・・・か」
棚からカプチーノ味のローションを手に取る知盛。
すぐに後の製造年月日を確認する。
(・・・やっぱりな・・・・・・・・・)
もともと回収に来たと言っていたのだ。残っているハズがない。
(将臣・・・落ち込むか?)
物質が無い場合の考えを組み立てなおす知盛。
ちょうど将臣が店のドアから入ってきたところだった。
「とっ・・・・・・」
将臣が知盛を呼ぶより早く、知盛が首を横に振ってみせる。
将臣の目は見開かれ、そのまま動かなかった。
知盛はローションを棚へ戻すと、将臣の肩を抱いて店の外へ出た。
俯く将臣が、ようやく口を開く。
「・・・・・・量・・・試さなくてもいいかな・・・・・・」
「今夜の量を減らしたとしても。使い続けていればいつかは減るし、なくなるものだ」
可哀想だが、それが現実だ。
チビたちに会いたいからと使わずに取っておくと会えない。会うために使えば終わりが来る。
「うん・・・・・・だよな・・・・・・駄菓子屋行こうぜ?」
「・・・ああ」
大きな姿のままの二人が駄菓子屋へ入るのは、なんとも妙な光景ではある。
知盛が見守る中、将臣はカゴいっぱいに思いつく限りの駄菓子を買った。
「夕飯・・・何にする?明日の方が重要だけど・・・・・・」
将臣が知盛の横顔へ問いかける。
「さあ・・・決めてないぜ?季節がいいからな。朝は和食で・・・・・・昼は・・・・・・」
「アレがいい」
将臣が指差した方向は、ピザの宅配所。
「・・・クッ。じゃあ・・・生地から作ってやるとして。夜は月見うどんだ」
「・・・夜、ケチくねぇ?もう少し豪華にさぁ〜〜〜」
知盛が将臣の後頭部を軽く叩く。
「いいんだ。一品モノをいくつかつけるくらいで。オマエは夜に食いすぎると寝るのが早くて敵わん」
「・・・・・・満月の次の日にもする気かよ」
将臣が項垂れる。自分で言ったとはいえ、今晩はかなりハードな展開が予想されているのだ。
「・・・クッ、継続すれば長持ちするかもな」
途端に将臣が首を上げ、知盛を見つめる。
「それって、どういう意味・・・・・・」
将臣が持つカゴへ次々と食材を入れながら、知盛がデザートにする薩摩芋を吟味する。
「・・・簡単な事だ。将臣の理論もいいが・・・ビタミンなんかは過剰摂取しても、無駄な分は体外へそのまま出ちまう」
「あ゛・・・・・・」
世の中、すべて比例の理論では括れないと気づく。
「だが・・・続ける事で有効なモノもあるだろう?それこそ健康ヲタクみたいな話だが」
何気に重いものばかりがカゴへ入れられてゆく。
普段はチビ臣を片手に抱いての買い物だが、本日はチビも無ければ荷物持ち付だ。
冬へ向けての食材の準備もしておかなければならない。
「・・・つうかさ、知盛!オマエ、まさか知っててからかってんのか?どうすればチビたちがそのまま居られるか・・・・・・」
カゴを下へ置き、将臣が知盛の袖を掴んで振り向かせる。
知盛は肩を竦めた。
「知るわけ無いだろう?知ってたらチモリに聞いたりしないさ・・・・・・考えはいくつか用意した方がいい。戦略と同じだろう?」
続いて砂糖の袋を三袋入れられる。一袋一キロである。
「・・・それはさておき。知盛!重いんだっつの!それに、何に使うんだ、こんなに!!!」
気づけばカゴからはみ出す食材の数々。
「馬鹿だな・・・将臣は。この世界での冬は初めてだろう?出来るだけ家から出なくて済むようにするんだよ」
将臣の手はカゴを放せない。
知盛は余裕で将臣へキスをする。
「冬は・・・ベッドから出なくてもいいんだぜ・・・・・・なぁ?将臣・・・・・・」
意味深な発言を残し、知盛は次の食材へと向かう。
「・・・・・・俺は自分の家探しをすべきか?」
知盛の体力の続く限り家からは出られそうも無い。けれど───
「冬はさ・・・草木も休んじまうからな・・・・・・」
だんだんと冷たさが増す外の気配を感じつつ、買出しを終わらせた。
(Printing day:2005.12.22)
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